りーちゃんのたね     2005/10/17 新規作成
 入学式が終って教室に戻ったとき、僕は隣に座っていたおとなしそうなかわいい女の子に一目惚れをした。女の子の名前は菅谷梨沙子、出席番号が同じだったので1学期の間はずっと隣の席。
すぐに仲良くなったけど、『りさこちゃん』って呼んでいるつもりがいつも『りしゃこちゃん』って言ってしまうので、いつしか僕は『りーちゃん』って呼ぶようになった。

 僕たちは理科の授業であさがおの種を植えた。
1週間後、成長の早いあさがおは芽がではじめる。
ぼくのはまだでない。2週間たってまだ芽が出てこないのは僕とりーちゃんだけ。
翌朝起きるとなんか胸騒ぎがして、いつもより早く学校に行った。ランドセルを机に置いてあさがおのとこに行くとりーちゃんが座って鉢をじっと見ていた。
「おはよ〜」
「あっ、まろんくんおっは〜!」テレビのまねをして両手を広げてあいさつをしてくれる。
「やっぱりまだ芽でないねー。」僕はりーちゃんの鉢をのぞきこんでそう言うと、
「うん。。。あっそうそう、ちょっとこっち見て」りーちゃんの指さした鉢のほうを見ると
「あっ!」
「まろんくんのあさがお芽が出たんだよ、よかったねー」りーちゃんは笑顔で僕の顔をのぞきこんだ。
「うん」僕は鼻の下をこすりながら小さな芽を見ながら答えた。顔を上げるとりーちゃんはまた自分の鉢のところに行って座っていた。
「毎日1番に来てるの?」
「うん。わたしお花大好きなの。だから朝早く来てお水あげてるんだー。」りーちゃんはうれしそうに話してくれた。1人、2人と教室にはだんだんとみんなが登校し始めた。


 その日の2時間目の休み時間のことだった男子3人組がからかいにやってきた。
「菅谷のあさがおくさってんじゃねーのか?」
「そんなことないもん。絶対芽でてくるもん」
僕はそれを遠くから見ているだけでいつも助けてあがられなかった。
りーちゃんは休み時間のたびに鉢のことに行っては何も出ていないまっさらな土を眺めていた。
芽が出ている他のあさがおの成長に比例するように、りーちゃんに対するからかい方もエスカレートしていった。

 ある日の昼休みが終ろうとしているころ、いつものようにまだ出てこない鉢を眺めているりーちゃんのところに、ドッヂボールで遊んで帰ってきたいじめっ子の男子3人がニヤニヤしながら近づいてきた。「菅谷ぁ、まだ見てんのかよー。もうあきらめろよ」後ろにいる2人もそれを笑ってみている。りーちゃんの鉢をこつこつ蹴るいじめっ子たち、彼女は今にも泣き出しそうだった。いやだ!りーちゃんの泣いた顔なんて見たくない!いてもたってもいられなくなった僕は柱の陰から飛び出し叫びながらそいつらに向かって体当たりをした。
「リしゃこをいじめるなーーー!!!」
そいつはよろけてバランスを崩したが、すぐさま僕に向かってきて僕はあっさりと倒されてしまった。一緒にいた残りの2人にも囲まれてしまい結局体当たりの一撃以外はなにもできなかった。
すると、1人がドッヂボールをりーちゃんの鉢めがけて投げた。
「やめろー!」僕は叫んだけど時すでに遅し、ボールは見事に鉢に命中、
「キャー!!」りーちゃんの悲鳴とともに鉢は倒れ、中の土が四方に飛び散った。「やべー!逃げろっ」そう言って3人組は教室に逃げ去ってしまった。無残な姿になった鉢を見てりーちゃんはその場で泣き崩れてしまう。と、「キーン コーン カーン コーン」5時間目の授業開始のチャイムが、僕は立ち上がってりーちゃんのとこに近よった。
「授業始まるよ、遅れたら先生に怒られちゃうよ。」だけどりーちゃんは泣きながらじっと倒れた鉢のほうを見つめながら、地べたに座り込みなかなか動こうとしなかった。
りーちゃん1人残してはいけないし、僕もただ横でじっと立っていることしか出来なかった。
 教室に僕たちがいないことに気づいた先生が呼びにきた。「2人とも何やってるのー、早く教室入りなさい」僕はりーちゃんが立ち上がるのを待って一緒に教室に向かった。途中で「僕が先生に言いつけてやるよ」というと、りーちゃんは無言のまま首を横にふった。だけどこのままじゃ、、、そのとき僕はりーちゃんのためだと思ってさっきの事を先生に言う決心をした。
教室に入ると先生に僕たちが教室にいなかった理由を聞いてきた。「あの、さっきの休み時間に・・・」しゃべり始めると背中に痛いほどの視線を感じた、ゆっくり後ろを振りむくとさっきりーちゃんの鉢にボールをぶつけたやつがこっちをにらんでいた。右のほうからはそこにいた2人が僕のほうをにらんでいた。僕はびびってしまい声を出すのも精一杯で「チャイムが聞こえませんでした。。。」結局先生に言いつけることは出来なかった。ごめんよ!りーちゃん。僕にもっと勇気があったら、、、
椅子に腰掛けると5時間目の授業は3方からの視線におびえながら、散らばったままになっているりーちゃんのあさがおのことをずっと考えていた。


 帰りの会が終って僕は散らばった土を元の鉢に片付けにいった。しばらくするとりーちゃんがやってきて一緒に片付け始めた。「ごめんね、わたしのせいで、、、」僕はりーちゃんは全然悪くないと思っていたからあやまられてびっくりした。あやまるのはあの3人のほうだよ。片付けていると土の中からあさがおの種が4つ出てきた。「何で芽でないんだろうねー?ちゃんと種あるのにー」りーちゃんも不思議そうに種を見つめている。僕は種を拾い、手のひらに載せてりーちゃんの前に差し出した。
すると僕の手のひらを彼女は両手で上下からはさんで何かを決めたように僕のほうを見た。僕もじっとりーちゃんの澄んだ瞳を見つめ、あいていた左手をりーちゃんの右手の上に乗せた。
「神様お願いします!わたしのあさがおがさきますよ〜に!」りーちゃんはそういうと種をはさんだ手を太陽のほうへ向けた。なんかおかしかったけど僕も一緒になって、りーちゃんのあさがおの芽が出るように神様にお願いをした。「神様お願いします!」
「じゃあ、もう1回植えなおそう」
「うん。。。」りーちゃんはかわいらしい小さい指で土の表面にくぼみを作った。僕はひとつずつ種を渡すとりーちゃんはそのくぼみに種をいれていき、やさしく土をかぶせていった。彼女は昼休みの出来事なんかなったように、あんなに泣いていたことがうそのようにすっきりした笑顔だった。
 「そういえばさっき怪我したとこ大丈夫?」すりむいたとこをさすりながら、ちょっとまだひりひりしていたけど
「このくらい平気だよ」と強がりを言ってみた、
「ありがとっ!」りーちゃんは僕のすりむいたほっぺに軽くキスをした。うれしくて、恥ずかしくて、真っ赤になった僕の顔を見てりーちゃんはやさしく微笑んでいた。
それはどんな傷薬よりも効く魔法の薬だった。

 教室に戻ると誰1人残っていなかった、あとからりーちゃんが教室に戻ってきて
「ちさとちゃん先帰っちゃったみたい。まろんくん今日は一緒に帰ろうよ」
「うん。」
僕たちは教室を出てからずっと手をつないで帰った。
 帰るのが遅かったからお母さんにいっぱい怒られたけど、全然平気だった。だって僕にはりーちゃんがいるんだもん!


 〜つづく〜
      ※この物語はフィクションです。