EL34-12AT7 パラPPの製作

【真空管データ】


12AT7のデータ(HP「電圧増幅双3極管比較表」から)

内部抵抗(rp) 5.5k
増幅率(μ) 60
相互コンダクタンス(gm) 10.9


EL34のデータ

内部抵抗(rp) 1.4k(3結時)
増幅率(μ) 15(11×1.4=15.4)
相互コンダクタンス(gm) 11

参考:3定数の関係
*「μ」=「gm」×「rp」
*「gm」=「μ」÷「rp」
*「rp」=「μ」÷「gm」


【初段の検討】
初段は、SRPP差動型なので、上球を真空管抵抗と考えて、50kのロードラインを引いてみました。片側の球で2.8mAを流すことにします。
ホームページ「私のアンプ設計マニュアル」によれば、
「負荷抵抗値 = 上側球のrp + ( 上側球のRk × 上側球のμ ) + 上側球のRk」
ということなので、
5.5k+(0.6k×60)+0.6k=43.3k なので、45kのロードラインを引きました。


出力段のカソード電圧は、自己バイアスで-27Vを想定しています。実効値は、27V x 0.707≒19Vrmsになります。出力段をドライブするのに、実効値で19Vが必要です。
これに必要な初段の出力電圧は、19Vrms x 2 x 1.414=53.7Vp-pとなります。上のロードラインでは、バイアス-1.5を中心に、-1Vのときが100V強、-2Vのときが150V弱で、約45Vp-pとなっていますので、出力段をドライブするのに不足しています。


【出力段の検討】
出力トランスは、ノグチPMF-28P-5kを購入。HPの製品紹介で「極KIWAMI」などと謳ってありました。
5kのロードラインを引いてみました。動作点は、350V、50mA、バイアス -27Vです。
EL34のカソード電圧は、B電圧が約500Vなので、500V-350V=150V。LM317への供給電圧を約10Vとすると、140V降下させる必要があります。140V÷50mA=2.8kΩがカソード抵抗になります。これは、かなり発熱しますので、シャーシの外に出しました。また、当初、LM317を1個で200mAを定電流化しましたが、発熱で不安定になるため、1個追加し、2個を並列にして、それぞれ100mAずつ流すことにしました。


【製作途中でのトラブルなどへの対応】

1. 発熱がものすごい
シャーシ上のEL34が8本と出力段のカソード抵抗(セメント抵抗)の発熱が想像以上にすごい。シャーシに穴を開けたくないので、カソード抵抗とチョークトランスをケースで囲い、その下に穴を開けて、シャーシ内の通気を確保した。しかし、電熱器並みの発熱になっている。

2. 時々音が途切れる
電源を入れて、10分ほど音楽を聴いていると、音が途切れることがある。原因は、LM317があまりに熱くなりすぎて、定電流回路が機能しなくなっているためだった。
対策として、LM317を1個追加し、2個を並列にしました。これで、アンプはかなり熱くなっているのに、安定して音が出るようになりました。

3. 発振(超低域発振・モーターボーティング)
ときどき左のスピーカーから、ボコボコというような音がします。また、ボコボコという音が取れても、ブッというようなノイズが入ったりします。
調べてみると、超低域発振・モーターボーティングのようです。
出力段と初段のデカップリングコンデンサの容量を増やしました。また、初段の定電流ダイオードに供給するマイナス電源のコンデンサの容量を増やしました。これでなんとか、発振は収まりました。
「デカップリングの回路は、ハイカットフィルターの回路なので、超低域が素通りしないように十分に容量を上げる」のが、良い対策のひとつということのようです。
159 ÷ ( 抵抗値 × 容量 )=時定数
と言うことなので、これが、0.1Hz以下になるようにしました。

4. アンバランス電流の調整
初段の真空管(12AT7)は、特性の揃ったものを購入しなかったため、かなりバラツキがあり、出力電圧が揃いません。そこで、半固定抵抗を使い、出力電圧調整を行ってみました。
 これで、ある程度は、調整できましたが、どうも音質に影響を与えているようです。音にハリがなくなり、安物のトランジスタアンプのような音です。

 結局、半固定抵抗で出力電圧調整をすることはあきらめ、元のカーボン抵抗に戻しました。出力段のカソード抵抗両端の電圧が10V〜12Vくらいあり、アンバランス電流がかなりありますが、ノグチPMF28Pは、アンバランス電流12mAとあるので、普通に音はなっています。
 出力電圧調整は、真空管そのものを選別することで調整することにしました。
 インターネット上のHP「n-mmra.net Web Siteの自作オーディオのページ」「SRPP用真空管の選別」の方法が紹介されていました。12AT7を4本追加注文して、8本の中から、2本ずつ特性の揃ったものを選別しました。
その結果は次のとおりです。


NO TYPE P1 K1 K1-P2 P2 K2 I(mA)
1  12AT7 223.6 103.5 2.1 101.4 1.75 1.17
2  12AT7 223.6 119.5 2.2 117.3 1.70 1.22
3  12AT7 223.4 106.6 1.7 104.9 1.67 0.94
4  12AT7 224.1 114.7 2.2 112.5 1.65 1.22 *
5  12AT7 224.6 116.6 1.9 114.7 1.68 1.06
6  12AT7 225.2 113.5 1.7 111.8 1.88 0.94 *
7  12AT7 225.2 118.8 2.5 116.3 1.91 1.39 **
8  12AT7 225.1 117.9 2.2 115.7 1.69 1.22 **

4番と6番のペアー、7番と8番のペアーを選別しました。
これで、出力段のカソード抵抗両端の電圧が、左4V 右6Vにおさまりました。
また、さらに左右それぞれで、真空管の入れ替えを細かくやってみると、左3V 右5V程度になりました。

5.デザインと回路
今回は、電源トランスを中央に設置し、左右対称のデザインにしました。構成は、「2台のモノラルアンプをひとつの大きなシャーシに収めた」というような感じです。しかし、アースは、どこでシャーシに落とせばいいのか悩むことになりました。2台のモノラルアンプをひとつのシャーシに収めた場合、シャーシのどこの1点にアースを落とせばいいのかわかりません。
そこで、左右それぞれの入力段の近くで、シャーシに落とすことにしました。結果は、まったくノイズはありません。
黒川 達夫氏の「はじめての真空管アンプ―クラフトオーディオ入門」にアースの方法が載っています。これを読むと、「アース線に微弱電流が流れるので、信号経路ごとにアースをまとめ、微弱電流が流れない場所で、シャーシにアースを落とす」ということのようです。入力段の近くは、もともと微弱電流が少ないところであり、信号経路ごとのアースから離せば、どこでも大丈夫だし、何点でも変わらないようです。
シャーシの配線をうまくすれば、もっと静かなアンプが作れると実感しました。どんなに立派な回路でも、実機でうまく配線できなければ、いいアンプは作れない、ということだと思います。また、うまく配線すると言うのは、見た目のきれいな配線とは違っているのかもしれません。結局、電気回路の配線なので、原理があり、それに整合しているかどうか、ということでしょうか。

6.マイクロフォニック雑音
今回、はじめてマイクロフォニック雑音というものがあることを実感しました。
これは、「私のアンプ設計マニュアル / 雑学編」で解説されていたのは知っていましたが、実機で、スピーカ出力端子にクリスタルイヤホンを繋ぎ、真空管を軽く指で叩くと、その音が「コンコン」と聞こえてきてしまいます。
12AT7は、マイクロフォニック雑音への対策がされてないということです。アンプのケースの足をゴム製のものにして、できるだけ震動がアンプに伝わらないようにしました。