九州、優柔不断な旅

第1話


プロローグ

 旅が好きである。それも優柔不断な旅ほど面白い。出発したものの、この先見当がつかない旅、それが私にとって優柔不断な旅である。

この一節は私の憧れである山本昌美さんが、その著書の書き出しで言っていたものです。彼女はパリダカールラリーなどのアドベンチャーラリー参戦やTVの旅行番組など、いろいろな型で世界中を旅している。そんな彼女の言葉が、私の心に刻まれてから10年以上もの月日が過ぎました。
9月に北海道をバイクで旅して、その言葉に隠された意味をはじめて実感した気がする。優柔不断な旅は素敵だ。そんな訳で、北海道ツーリングも佳境に入ったころには、もう次の旅を考えていた。
9月の北海道は寒かったので、次は暖かいところ 九州へ・・・


11月12日 旅立ち

 当初は11月1日に出発しようと予定していたが、家庭の事情でだいぶ遅れての旅立ちとなった。24日には帰らなければならないので、旅の日数が大幅に減ってしまったのが残念である。
 19:30発、宮崎行きのフェリーに乗船するために16時に家を出て、R246を川崎方面に走る。夕方近くで車が多い。多摩川の近くまできて進路をR409にとり、川崎港をめざす。
 途中、フェリーの中で摂る食料や酒を買い込み、18時を少しすぎたあたりでフェリーターミナルに着いた。
 係員の指示に従いバイクを停めると、すでに1台の原付バイクが停まっている。やがてもう1台、バイクのヘッドライトの光が低いエキゾースト音と共にやって来て、俺の隣なりに停まった。古いBMWである。オーナーと二言三言、言葉を交わすと、1961年式のR5というものらしい。単車という言葉がしっくりとなじむ。
 乗船手続きをすませてしばらくすると、乗船案内の放送が流れバイクをフェリーに積み込む。結局、バイクは3台だけであった。
乗船後しばらくはバイク乗り同士で話をしていたが、やがて各自の船室に入り眠りにつくのであった。


11月13日 船旅と温泉

 時間に追われる事がなく、のんびりとできるので船旅もいいものだ。右手に地図、左手に缶ビールを持って、九州上陸後のルートをあれこれと考える。時には風呂に入って気分転換などもしてみる。とにかく夕方までのんびりできるのだ。
 17時10分、宮崎港に入港。下船してすぐに夕食の材料を仕入れる。空はまだ明るい。テントを張れそうな場所を探しながら海沿いの道を南下すると、青島を少し過ぎたところで白浜海水浴場を発見。もちろんオフシーズンだから人気はなく野営をするには絶好の場所である。
 太陽はすっかり沈んであたりは暗くなっている。テントを張り終えると、温泉に入るためバイクで青島温泉を目指す。洒落たホテルに行ってみるが、日帰り入浴の料金がやはり高価である。希望は一回、500円以内である。3件目の温泉宿で500円にて入浴することができた。もちろん、風呂上りは生ビールである。
休憩室でビールを飲みながらTVを観てしばしのくつろぎタイムを満喫する。
 テントに戻ると食事を済ませ、しばらく海辺でぼーっとする。空には綺麗な星が無数に見え、波の音も優しく聞こえる。至福の時である。

11月14日 201飛行隊再び

 久しぶりのシュラフのためか、昨夜は熟睡ができなかった。簡単な朝食を食べテントをたたむと、今日の出発である。
R220別名【日南フェニックスロード】を南下する。左手に白い砂浜、青い海を観ながらゆっくりとした車の流れに乗ってバイクを進めていると、雨が降り出してきた。やがてちょっと変った神社を発見しバイクを止める。そこは洞窟が神社になっているのである。何の神様が奉ってあるのかわからないが、とりあえず今回の旅の安全を祈り、賽銭を投げたのである。そして強くなっていく雨に備えてカッパを着込み、再スタートをきった。
日南市でR222に進路を変え、途中道の駅「酒谷」で休息する。昔風の建物に入ると焚き火の匂いがした。あたりを見回すと奥にあるいろりで暖かそうに薪が燃えていた。
お腹が空いたので、そこの食堂に入りラーメンセットを頼む。正直なところあまり期待はしていなかったけれど、それを食べてみて感激である。とんこつスープにすごく腰のある細麺がなんとも美味しい。これで700円は安い。おすすめの一品である。
 満腹になったところで、先に進むことにする。R222から県道34号に入る。うっすらと紅葉し始めた細い山道を淡々と走り、途中で県道3号に入る。少し走ると県境を通過して鹿児島県に入った。雨もだいぶ小降りになっている。
 志布志に着くと雨も完全にあがったのでカッパを脱ぐ。R220を走っていると道の駅「くにの松原」を発見、休息タイムにする。土産物売り場を物色していると黒豚の角煮を発見!今夜の酒の肴に一つ買い出発することに
 R220〜R269で鹿屋市に入ると、鹿屋航空資料館の標識が出ていたのでよってみることにする。標識の指示通り進み交差点を曲がると、海上自衛隊の基地であった。一瞬、間違えたと思ったが、よく見るとゲートの前に左に折れる道を発見。そちらに進路をとると資料館が姿を現したのである。
 駐車場にバイクを停め、野外展示してある飛行機やヘリコプターなどを眺めつつ入口を目指す。自動ドアが開き一歩建物の中に入ると、受け付けカウンターから「いらっしゃいませ。こちらで受け付けをお願いします。」と汗臭い軍隊系の力強い声がした。声の主は若い水兵である。受付を済ませると順路に沿って見学をする。まずは2階の太平洋戦争関連の展示物を見る。艦船や飛行機の模型、当時の写真や書類、装備品などいろいろとある。そして、復元したものだが本物の零戦や、そのエンジンも展示してあった。神風特別攻撃隊関連の展示場には、特攻隊員一人一人の写真があり所属部隊や名前、階級などがその下に添えてある。それらを見ていたら、前回の北海道旅行で会った当麻鍾乳洞の土産物屋の爺さんを思い出した。彼は201飛行隊と言っていたので、同じ部隊の人を探したら結構大勢いたのである。あの爺さんがこれを見たら泣いちゃうだろうななんて考えてしまう俺であった。
1階は海上自衛隊関連の展示物で、こちらもマニア心をくすぐるものが多くあり時間がどんどん過ぎてゆくのであった。
一通り見学をして駐車場に戻ると日が傾き始めていた。R269で鹿児島湾に出て、そのまま海沿いを南下して今日の野営地を探す。
太陽が沈む間際に町営の神川キャンプ場(無料)を発見。国道沿いで少しうるさそうだが、ここにテントを張ることにした。もちろんキャンパーは俺だけ 貸切状態である。
テント設営も終わり野営準備が整うと、近くにあるトロピカルガーデンという温泉に行き、電気風呂でビリビリと痺れつつ湯に浸かって一日の疲れを癒す。ここでも風呂上りの生ビールは忘れなかったのは言うまでもない。

11月15日 みかん

 朝は、パンとコーヒーである。理由は、野宿旅ではこれが一番簡単だからである。
 朝食を済ませると、一気に荷物をまとめ一日のスタートを切る。昨日までは大隈半島の南端である佐多岬に行くつもりだったが、もくもくと煙を上げている桜島を見たら気分が変ったので、一路海沿いの道で桜島をめざす。
 R220を北上しR224で桜島に入る。有村展望所によってみると、そこの駐車場には荷物を満載したハーレーが4台止まっていた。その荷物には【日本一周中】なんて書いてある。よく見ると、ホクレンの旗もあったり、観光地によく売っている地名の入った提灯の飾り物を沢山ぶら提げているのもある。もちろんその提灯には全国の地名が記されている。どのハーレーの燃料タンクにもあちこちで出会った人達が書いたであろう安全祈願?の落書きだらけで、なんともファンキーでいい味を醸し出していたのである。しばらくそのオーナー達を待ってみたが、なかなか戻ってこなかったので出発することにした。
 途中、桜島国際火山砂防センターでトイレを借りたついでに、展示室を見学していくことにした。そこでは案内係のお姉さんが、必要以上に親切にしてくれてちょっと困ってしまう。
 その後、再び走り出すと昼頃に道の駅「桜島」に到着。ここで昼食を食べながら、これからのルートを考える。時間的に桜島一周後、陸路で鹿児島市内突入は無理そうなので、湯の平展望所を見学してからフェリーで鹿児島市内に向かうことにした。
 湯の平展望所に行くと、そこでは地元の観光協会の人が、観光客にお茶とみかんをご馳走していた。俺もそれらをご馳走になり、観光客を接待していた【ミス桜島】と記念写真を撮り、ほくほく笑顔でその場を後にしたのである。
 フェリー乗り場に着くと、こんどは商工会議所の人たちがオレンジ色の袋を配っていた。俺もその袋を、一つもらい中を確認すると桜島の観光パンフレット、みかん2個、チューイングガム2枚が入っていた。袋には「平成13年度 桜島親切運動」と印刷されている。
 フェリーは15分ほどで鹿児島市に着いた。市内に上陸してすぐに鹿児島駅を目指す。目的は観光案内所である。
 駅に着くと予想通り観光案内所もあった。そこで鹿児島市観光案内のパンフレットをもらいバイクに戻って眺めていたら、仕事の途中であろうおじさんが「どこ行くの?」と聞いてきた。特に決まってないと答えると、いろいろと教えてくれたが、鹿児島弁で何を言っているのか判らない。とりあえず最後まで話を聞いてから、お礼を言って別れた。
 その後、いくつかの場所を巡り、最後に西郷さんの銅像を見学して、路面電車が走りどこか懐かしい情緒が漂う鹿児島市内を後にして、吹上浜をめざし県道22号線を走る。
吹上浜に出るとこんどはR270を南下し、道の駅「きんぽう木花館」で休憩をとる。この時すでに夕方で、そろそろ野営地を探さなくてはならない時間である。
 地図を眺めて野営地の目安をつけ、そこに向かう。場所は加世田市にある吹上浜海浜公園である。30分ほどで現地に着いたが、その公園は夜になると門を閉めて出入り禁止にしてしまう上に、週末に行なわれる世界室内自転車競技選手権(サイクルフィギア&サイクルサッカー)のため警備が厳しく、野営はできそうにない。しかたなくその周辺をさまよい万之瀬川の河口にテントを張ることにした。
 見晴らしのいい場所にテントを張っていると、空から雨粒がポツポツと落ちてきた。慌てて橋の下にテントを移動する。雨はだんだんと強くなっていく。
 雨のために近くの温泉に行くのをあきらめ、テントの中でザーザーとノイズだらけのラジオを聞きながらバーボンを飲んでいると、車がテントのすぐそばに止まった。とりあえずテントから出て外を確認すると、若い夫婦が夜釣りにきたらしい。そう言えば釣り人の数がだいぶ増えている。そこで俺は「何が釣れるのですか?」とその夫婦に話しかけてみた。そこから自然と会話が始まり、最後に奥さんが「これ食べてください」と言ってみかんをいくつかくれたのである。気が着けば雨はいつのまにかやんでいた。
 テントに戻ると夕食を作り食べた。そして、いまもらったみかんをデザートに食べるとシュラフに包まって眠りに着いたのである。

 桜島をバックに...ミス桜島と。