◆ ユークリッド幾何学
そんなコウちんを押しのけて、ヒデ先生はリーマン博士に数学を教えてほしいと、またもや頼みました。
「あなたは、どれくらい地球数学を勉強しましたか?」
「たくさん勉強しました。たとえば、今から2千年前、地球人のユークリッドという人が幾何学を集大成した原論という本を書きました」
「それ、本当なの〜?」
「夢でも見たんじゃないの?」
ミーたんもコウちんも疑問を持っています。
「そんなことない。ユークリッド幾何学は最初に、点や線などの基礎的な概念を定義しているんだ。次に、その基礎的概念を用いて公準や公理を作り、それらを用いた証明を重ねて定理を導き出して行く。こうして作られた幾何学は、やがてユークリッド幾何学と呼ばれる公理系になった」
リーマン博士は、その勉強振りに驚きました。
「その通りだ。ユークリッドの原論では、いくつかの定義と次のような5個の公理と5個の公準が設定されている」
【5個の公理】
(1)同じものと等しいものはお互いに等しい。
(2)同じものに同じものを加えた場合、その合計は等しい。
(3)同じものから同じものを引いた場合、その残りは等しい。
(4)お互いに一致するものは、お互いに等しい。
(5)全体は部分よりも大きい。
【5個の公準】
(1)任意の点から他の任意の点に直線を引くことができる。
(2)線分をまっすぐ延長すれば直線になる。
(3)任意の点を中心として、任意の半径で円を描くことができる。
(4)すべての直角はお互いに等しい。
(5)1本の線分が2本の線分と交わり、同じ側の内角の和が2直角(直角の2倍の角度)より小さいならば、その2本の線分を限りなく延長すると2直角より小さい角のある側において交わる。
「現在、公準も公理も同じと解釈されている。そのため、今では5番目の公準を第5公理と一般的に呼んでいるのだ」
リーマン博士は、首を動かしてコキコキ鳴らしています。
「ユークリッド幾何学は、いうなれば直感的に納得できる幾何学である。直線はどこまでも伸ばせるはずであるし、平面はどこまでも平らな面である。また、平行線はどこまでも平行に伸びるのだ。何か疑問はある?」
「あるさ」
「どこに?」
サクくんはその疑問点を述べました。
「第1公準さ」
「どういう疑問?」
「どうして、1本と入れなかったのか?」
「どういうこと?」
「つまり、どうして次のようにしなかったのか、ということさ」
第1公準:任意の点から他の任意の点にただ1本の直線を引くことができる。
「さあ?私にもわからない」
「じゃあ、直接、ユークリッドさんに聞いてみたら?」
サクくんは、ポケットから携帯電話を取り出して、電話をかけ始めました。地球人たちは、みんなはびっくりしました。実は、これは時空を超えた携帯電話なのです。
ぷるぷるぷるぷる〜
「はい、こちらはユークリッドです。どちらさんでしょうか?」
サクくんはそのまま携帯電話をリーマン博士に渡しました。リーマン博士はいきなり渡されたので、おどおどしています。
「も、もし、ももし。わ、わ、私はリーマンといいます」
「リーマンさん?知らないね」
リーマン博士は少し落ち着きました。
「そうでしょう。私はあなたの時代には生まれていませんから」
「何のご用でしょうか?」
「実は、あなたが設定した第1公準に疑問を唱える少年がおりまして、それでお電話をかけさせていただきました」
「私は第1公準に疑問などないよ」
「いえ、疑問を持っているのは私の隣にいる少年でして…どうして第1公準に『ただ1本の直線』という明快な数字を入れなかったのかということです」
しばらく沈黙が続きました。ユークリッドは答えました。
「そちらで、つけ足しておいてくれないかな」
みんなはずっこけました。
「はい、わかりました」
電話は切れました。
「もう切っちゃったの?まだ、聞きたいことがあったのにな〜」
コウちんも質問がありました。
「いったいなんだね?」
「問題の第5公準だよ〜」
「第5公準がどうしたの?」
「どうして、交わるとしたの〜?」
「どういうことだ?」
「次のような表現でも良かったのじゃない〜?」
第5公準:1本の線分が2本の線分と交わり、同じ側の内角の和が2直角ならば、その2本の線分を限りなく延長しても交わらない。
「もう、もっと早く言えよ」
リーマン博士は、携帯で再び電話をかけました。
ぷるぷるぷるぷる〜
「はい、こちらはユークリッドです。どちらさんでしょうか?」
「リーマンです」
「はあ?誰?」
「リーマンです。何度もお電話してすいません」
「知らないなあ」
リーマン博士はびっくりしました。
「え?さっき、お電話したじゃないですか、もう」
「…」
「お忘れですか?リ・ー・マ・ンです」
しばらく考え込んでいたユークリッドは答えました。
「ああ、1年前に電話をかけてきたあのリーマンさんか」
「1年前?」
どうやら、電話をかけた時代が1年間ずれたようです。
「今度は何?」
「実は、また別の少年がユークリッドさんの第5公準に疑問を抱いているようで…」
リーマン博士はユークリッドに事情を説明しました。
「ああ、その件ね」
「また、こちらで書き換えてもかまいませんか?」
「そりゃ、困るよ、君!」
「でも、ユークリッドさんの第5公準だと、内角の和が2直角のときには交わるとも交わらないとも言っていないので、いろいろな解釈ができます。だから、2直角のときには交わらないと加えたらどうかを思いまして…」
「そしたら、それだけでは問題は解決しない」
「は?」
「内角の和が2直角よりも大きいほうの側でも、交わるとも交わらないとも言っていないからだ」
「じゃあ、どうしたらいいでしょうか?」
「第5公準を、次のように書き直しておいてくれないかな」
第5公準:1本の線分が2本の線分と交わり、その2本の線分を限りなく延長するならば、内角の和が2直角より小さい側において交わり、内角の和が2直角より大きい反対側においては交わらない。また、内角の和がちょうど2直角ならば、どちらの側においても交わらない。
「じゃあ」
そういって、電話は切れました。さあ、大変です。ユークリッド幾何学の第5公準が、以前よりもずっと長くなってしましいました。
「しまった、電話などするんじゃなかった!」
リーマン博士は頭を抱え込んでしまいました。これから博士は、改良されたこの新しい第5公準をどのように否定するつもりなのでしょうか?
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