◆ 非ユークリッド幾何学の矛盾
「地球数学を知るのも結構だが、ノワツキ学校の数学も捨てたもんじゃないきゅ〜」
うきゅ〜の神様は、自信を持つように言いました。
「ユークリッド幾何学の仮定をE1,E2,E3,E4,E5とするきゅ〜。E5は有名な平行線公理である。この5個の仮定がすべて公理であれば、ユークリッド幾何学は真の命題のみを仮定に持っているので無矛盾な幾何学である。したがって、ユークリッド幾何学からは矛盾が出てくるような証明は存在しないきゅ〜」
好奇心旺盛のコウちんは、その先を自分に説明させてほしいと、うきゅ〜の神様に申し出ました。
「よいきゅ〜」
「えへん。では、代わって僕が説明します。ここで、E5を¬E5(平行線公理の否定)に変えた非ユークリッド幾何学を考えよう」
コウちんは、立派なプレゼンテーターになっていました。「非ユークリッド幾何学の仮定はE1,E2,E3,E4,¬E5になる。この非ユークリッド幾何学からも、ユークリッド幾何学と同じように矛盾が出てくるような証明は存在しない」
リーマン博士は聞きました。
「どうしてだ?」
「その理由は、E1,E2,E3,E4から矛盾が出てこないのにE1,E2,E3,E4,¬E5から矛盾が出てくれば、E5が他の公理E1,E2,E3,E4から(背理法で)間接的に証明されたことになるからです」
リーマン博士は考え始めました。
「E5が他の公理から、直接的であろうと間接的であろうと証明されたら、それは公理ではなく定理です」
この言葉に、リーマン博士は納得せざるを得ませんでした。
「よって、E1,E2,E3,E4,E5がすべて公理であれば、次なる結論が出てきます」
ユークリッド幾何学から矛盾が出てくるような証明は存在しない。非ユークリッド幾何学からも、矛盾が出てくるような証明は存在しない。
この最後の結論を見て、ロバチェフスキー隊長は高笑いをしました。
「アハハ、これは愉快だ。この結論は、非ユークリッド幾何学が無矛盾であることを述べているぞ。やはり、ユークリッド幾何学も非ユークリッド幾何学も、両方とも無矛盾だったのだぞ」
「そうじゃないきゅ〜」
うきゅ〜の神様は、ロバチェフスキー隊長の受け取り方の問題点を指摘しようとしました。
そのとき、今度はヒデ先生が申し出ました。
「私が代わって説明します。E1,E2,E3,E4からE5を導き出す証明が存在しないには、下記の2種類があります」
(1)E1,E2,E3,E4からE5を証明する直接証明法が存在しない。
(2)E1,E2,E3,E4からE5を証明する間接証明法が存在しない。
「(2)の間接証明法が存在しないとは背理法が存在しないということです。したがって、(2)を(2)’に変えることができます」
(2)’E1,E2,E3,E4からE5を証明する背理法が存在しない。
「E1,E2,E3,E4からE5を証明する背理法が存在しないということは、E1,E2,E3,E4と¬E5を仮定して矛盾を導き出すことができる証明が存在しないということでもあります」
ボヤイ隊員はふむふむと聞いています。
「これより、(2)’は次なる(2)’’になります」
(2)’’E1,E2,E3,E4と¬E5を仮定して矛盾を導き出すことができる証明が存在しない。
「E5が公理であるならば、この(2)’’も正しくなければならないというのか?」
ヒデ先生はうなずいています。
「これより、E1,E2,E3,E4に¬E5を加えても、そこから矛盾が出てくるような証明が存在しません。つまり、E1,E2,E3,E4,¬E5(いわゆる非ユークリッド幾何学)から矛盾を導き出すことができる証明が存在しません」
でも、リーマン博士は解せないような顔をしています。
「一方、E5が公理であるならば、非ユークリッド幾何学は¬E5という偽の仮定を有する矛盾した幾何学です。両者を合わせると、次のような結論が得られます」
非ユークリッド幾何学は矛盾しているにもかかわらず、その矛盾を導き出すことができるような証明が存在しない幾何学である。
リーマン博士は首を横に振って、まだ認めようとしません。逆に、質問をしてきました。
「非ユークリッド幾何学が矛盾していることの根拠は何だ?」
「今度は、私に説明させてくれる?」
マユ先生は、リーマン博士の質問に答えたくてしょうがなかった様子です。
「非ユークリッド幾何学が矛盾している根拠は、公理の否定を仮定として持っていることです」
「偽の命題を仮定に持つ幾何学は矛盾しているよね〜」
「では、非ユークリッド幾何学の矛盾が証明できない根拠は何だ?」
「公理を他の公理から導き出す背理法が存在しないことです」
コウちんはまたでしゃばって言いました。
「公理は他の公理から独立しているからだよ〜。公理の否定が正しいと仮定しても、矛盾が証明されないのだ〜」
ボヤイ隊員は、次第に非ユークリッド幾何学のおかしさを理解することができるようになりました。
「非ユークリッド幾何学から矛盾が出てこないことはわかったのである。しかし、われわれの星では『理論から矛盾が出てこない』と『理論に矛盾が存在しない』が同じであると解釈されているのである」
「それはおかしいよ〜」
「確かに、今、考えてみればおかしいと思うのである」
でも、リーマン博士は、それを受け入れることができません。
「そのおかしさはすでに解決している」
「どうやって?」
「平行線公理の否定が、平行線公理を否定していないと解釈すればいい。実際、今の非ユークリッド幾何学は、ユークリッド幾何学の平行線公理を否定していないのだ」
これには、ミーたんもコウちんも納得できません。
「昔の非ユークリッド幾何学は、明らかに平行線公理を否定していたよ〜。それなのに、今の非ユークリッド幾何学は平行線公理を否定していないの?いつから否定しなくなったの〜?」
「次は、私に説明させてくれる?」
最後はミーたんの説明です。うきゅ〜の神様は、ただ黙って見ているだけです。
「公理が証明不可能であれば、公理が真であることは証明できません。公理が真であることは証明できないならば、公理の否定が偽であることも証明できません。公理の否定が偽であることが証明できないならば、公理の否定を真と置いた背理法は存在しません。つまり、公理の否定を真と置いても、矛盾が証明できないのです。よって、公理の否定を仮定にした数学理論からは矛盾が証明されません」
ロバチェフスキー隊長も、ミーたんの言いたいことが少しずつわかるようになってきました。
「ここで、矛盾が証明されないことを無矛盾と言い切ってしまうと、公理の否定を仮定にした数学理論も矛盾であることになってしまうのか?」
「そのとおりです。これを根拠に、非ユークリッド幾何学の正当性が主張されてしまうのです」
「結局は、矛盾している数学理論の定義を、矛盾が証明されない数学理論としたことにすべての発端があったのか?」
「すべてとは言えません」
「では、その他に何があるのだ?」
「『A理論の中にB理論のモデルが存在すると、A理論とB理論が両立する』という間違った思い込みも、立派に非ユークリッド幾何学を支えてきました」
リーマン博士は盛んに首を横に振っています。そのうち、首を振り過ぎて目が回ったのか、ふらふらして地面に座り込んでしまいました。
みんなは少し議論で疲れたようです。コウちんは気を利かせて、話題を変えました。
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