◆ 仮定を増やす
「ところで、数学理論Zに命題Pという仮定を加え、新しい数学理論Z+Pを作るとします。そこから矛盾が出てきたら、どう解釈すればいいと思いますか?」
ミーたんは、質問の意味をはっきりさせるためにマユ先生に聞きました。
「その前に、数学理論Zに仮定Pを加えるとは、どういう意味ですか?」
「それは、こういうことです。数学理論Zの仮定をE1,E2,E3,…,Enのn個とします。これに、新たにPを仮定として加えるということです。両者の関係は次のようになります」
Z:E1,E2,E3,…,En
Z+P:E1,E2,E3,…,En,P
「Z+Pから矛盾が出てきたときは、背理法と同じじゃないのかしら?」
「それじゃあ、書いてみてくれる」
ミーたんは前に出て、黒板に次のように書きました。
(E1∧E2∧E3∧…∧En∧P)→Q
(E1∧E2∧E3∧…∧En∧P)→¬Q
「仮定から矛盾が証明されたということは、E1,E2,E3,…,En,PからQと¬Qが証明されたことになるわ。すると、上の2つの論理式が真になります。両者を合わせて変形すると、次の式が出てきます」
¬E1∨¬E2∨¬E3∨…∨¬En∨¬P
「この結論は、どういう意味かしら?」
「数学理論Zの仮定のうちのどれかが偽の命題であるか、または、加えた命題Pが偽の命題であるということです。つまり…」
数学理論Z+Pから矛盾が証明されたとき
(1)E1,E2,E3,…,Enのうちどれかが偽の命題
(2)Pが偽の命題
「(1)と(2)のうち、どちらかが正しいか、あるいは、両方とも正しいということだと思います」
ミーたんは、自分では模範的な回答をしたと自負していました。
「そうね、考えかたの基本は同じよ。でも、大きな違いがあることがわかるでしょう」
「何ですか?」
「それは、数学理論Zがもともと矛盾している場合と矛盾していない場合に分けられることよ」
「矛盾していない場合はどうなるの?」
「E1,E2,E3,…,Enがすべて真の命題だから、Pを否定するしかないわ」
「これは背理法そのものね。では、数学理論Zがもともと矛盾しているとどうなるの?」
「矛盾した理論は、そこにどんな命題を真と仮定して加えても、相変わらず矛盾しています」
「これは、どういう場合に言えるの〜?」
コウちんも話しに入りたがっています。
「具体的に言うと、対角線論法に適用することができるかもしれません。なぜならば、無限集合論が矛盾していれば、それに何を加えても矛盾しているからです」
対角線論法を知らないため話の見えないコウちんに代わって、ミーたんがさらに聞きました。
「いったい無限集合論に何を加えようというのですか?」
「一対一対応です」
「どういうことですか?」
「無限集合論という理論の中では、一対一対応を仮定して初めて矛盾が出てきたのではないかもしれないということです。はっきり述べると、一対一対応という仮定を置く前から、もともと無限集合論に矛盾は存在していた可能性があります」
マユ先生は無限集合論にも疑問を持っているようです。
「すると、どうなるの〜?」
「矛盾している無限集合論に、すべての自然数の集合Nとすべての実数の集合Rの間に一対一対応があるという仮定を正しいとして付け加えても、それから一対一対応を否定することができなくなるのよ」
「じゃあ、対角線論法によって出てきた矛盾は何を否定するの?」
「無限集合論そのものよ」
コウちんは話についていけなくなりましたが、マユ先生の話はこれで終わりません。
「今度は、次の2つの理論を比較してみましょう」
Z+P:E1,E2,E3,…,En,P
Z+¬P:E1,E2,E3,…,En,¬P
「数学理論Z+¬Pは、数学理論Zに仮定として命題¬Pを加えた理論です。理論Z+Pと理論Z+¬Pは最後の公理だけが異なります。Pと¬Pは否定関係だから、両方とも真の命題であることはあり得ません。そのため、Z+PとZ+¬Pのうちどちらかは、偽の命題を仮定にして作られています」
このマユ先生の言葉がどんなに深い意味を持っているのか、コウちんには読めませんでした。