壷に刻んだ、あれは、何。土間の隅の壷。窓の下の、こっちからは陰になって、よく見えない。褪めた色。ざらざらして、縁が欠けているのだろう。その下で、人が踊っているようでもあり、獣が牙を剥き出しているようでもある。そうじゃなくて、逆さまになった天使か。 天使って言った? 言わない、誰も。 誰か、来た? 来ない、誰も。 壷の中で、水が波紋を広げ、そして、鎮まる。 後二十五年は、そのままだろうよ。 汚い女が、どこか、小さな炎の前で、豚の牙を並べて予言した。 土器造りは、ワハハハと笑ったな。そして、ときどき、思い出し笑いしながら、半日掛けて、父の川へ赤い土を掬いに出掛けた。川底の粘土が、ここらでは、最高だとさ。 フムフムと、人に聞かれてはならない歌を口ずさみながら、水に入ったぞ。水に入るときは、いつだって、こうだ。手は、頭の上。踊るように、腕を揺らす。腰も捻ねる。流れの変わるあたり、虫食いの柿の葉が飲み込まれたあたりで、そら、真っ逆さまだ。 波紋が広がり、そして、鎮まる。 一度潜れば、しばらくは浮き上がらない。 鳥が、弛んだ縄を伝うように、川面を掠めて飛んだ。 それからは、誰も来ない。 そんな絵の物語が刻まれているのか。 夕方だから見えないのなら、今は見えなくてもいいのだけれど、でも、土器造り、いつ、戻る。 あしただよ。 |