遊動円木
執筆:1990/10/20−2002/11/5

(撓む光に縋れば倒壊の記憶に驚こう)

暗い明け方の糾問には
心底耐えられなかったよ

もっと遊んでいたかったよ
真昼の夢の中

青筋を立てた梁から
翼のない嘴が下がるよ

もう遊んではいられないよ
深夜の嘘の中

いまは
束になった約束を忘れて
冷たい薄暮の形式が
さもなければ
熱い裏切りの波紋が
さもなければ
老いへの戸惑いが
恋人たちの来ない公園の
撤去予定の
危ない危ない遊動円木の上を
いつかは飛べた羽蟻のように
両手を広げ
 恐々
渡りはじめる

ちょっと遊んでいこうよ
復讐の突堤で
嗚咽の石段で
疑惑の橋梁で
落魄の土塀で
拒絶の門前で
悔恨の縁側で
ぬるい茶を飲みさし
屠った敵を指折り数え

型に嵌まった空色の朝顔のように
這い上ろう ギクシャク
強情な国境の鉄柵を
ぼくたちの水鉄砲に狙われながら

 霞む
  擦れる
      眩む
    震える
冷える
      火照る
    固まる
 歪む 
捻れる
       軋む
 そして 痛むよ
  ここと
   ここと
 ここと
ここだ
   ああ
 そして ここも

まだ遊ぶ気でいたよ
ときを忘れて

忘れた頃に
さようならの最初のさの音が
ぼくたちの耳に届くよ


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