ひとつ置きに座席は埋まる ひとつ置きに空席が生まれる 私のとなりにも空席がある ところで この席はだれのために空けてあるのか この席は友のために空けてあるのだ この席は友のために空けてある しかし 去って行った友のために空けてあるのではない まだ見ぬ友のために空けてあるのでもない 自慢ではないが 私に友はいない だから そのことを思い出すために空けてある そのことを忘れないために空けてある どうかすると思い出す いなかった友を どうかすると逃げ出す まだ見ぬ友から いない友を捕まえて 私のとなりに座らせる そして いない友に言聞かす 「あなたはいないのだ」と いない友は言い返す 「いないのはあなただ」と 風が梢を尖らす やがて 私は咳をする だれにも知られないように隠れて だれにも知られないように隠れて 友が咳をする ひとつ置きに空席がある ひとつ置きに空咳が落ちる |