『モンテ・クリスト伯』をよむ
執筆:1987(?)−2002/6/18

   発端
メルセデス 父と しばし待たれてよ 朗らかにうたふ ラ・マルセーユ

   手紙
うつし世を物語に高めむと 文を委ねし大ナポレオン

   ヴィルフィール、手紙を焼く
夜毎夜毎 来べきものあり 火の上の紙の形の灰の舞ふ夢

   幽囚
ぬばたまの夜は数へねど 君を君と 幾度呼びしか 君に会へずに

   死の淵にて
カリカリと噛む音すなり 内部より わが身荒ます優しさのごと

   ファリア司祭
暗く狭き獄舎に「世界」を解き放ち 迷路に誘へる 師は病むらし

   破獄
垂直に沈みたり ただ垂直に沈みたり 死を真似しとがなり

   船乗りシンドバッド
黄金の虚しき光 洞に満ち 無何有のタバコ燻らしてをり

   義賊ルイジ・ヴァンパ
英雄の書を読むときは 灯を点し 眉月の刀 傍らに置く

   エバ
青白き顔の男のかたへなる 潰ゑし国の王女よ われは

   予感
なつかしき人の面影映したるマクシミリアン 豊かに笑まふ

   ヴァランティーヌとマクシミリアン
束の間の逢瀬隔つる裏の垣の その垣の間より出されし指

   ヴァランティーヌ
疎まれて疎みたりしに 伯爵は 壁のうちより われを守りたる

   老ヴィルフィール
目にて知り 目にて語れる 老志士の 毒に強きは なほも見むため

   ユージェニー
あらけなく髪をぞ切らむ われは女 父に背きて旅立つ夜半は

   ベネデット
われは貴族 われは悪党 昼の夢に父を捜してさまよひし者

   シャトー・ディフ再訪
獄丁の示せる石の白々し 知らず顔にて物語聞く

   物語の終わり
何とかも 君と別るるこのきはに 「待てしかして希望せよ」とや

   エドモン・ダンテス
フランス語 私の名前 思い出よ 壊れてしまへ 砕けてしまへ

(初出「普通の出来事」4)


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