松明を借りに来た少年は、小屋を出て、急な坂を下りて行った。炎を高く掲げた、細い道に差し掛かると。 曲がり角には、里程標のように突き出たものがある。 (そのことを知らないものはない) 突き出たものは薄い皮をよじらせ、春から夏にかけて移動する双子の老人が刻んだ一つの名を、白い色で示している。その名のものは、指折り数えるようにして待った。教えられた通り。遠い昔から、そうするものだと教えられていた。ことに、飴色の夕映えが惨い季節などは。 その名のものを捕らえたのは、簗ではなかった。 その名のものを捕らえたのは、風ではなかった。 その名のものを捕らえたのは、夢ではなかった。 その名のものを捕らえたのは、炎だった。 少年は、松明に浮き上がる、その名を読むことだろう、いつか。そして、読み終えると同時に、自分の名はそれであったと知ることだろう、いつか。知って、そして、坂道を、さらに下って行くことだろう、足をくねくねさせながら。 棒のような脚が、道のように折れ曲がる、その前に、戻しなさい、松明は。日時を切らずに貸したものだが、くれてやった覚えはないぞ。 |