まど・みちおの『ぞうさん』讃
執筆:2014



 まど・みちおの百歳の誕生日を祝うNHKの番組を少し見た。その中で『ぞうさん』のことが話題になっていて、この歌の深い意味を知らされたことだ。
 「おはながながいのね」という質問は、いやみだった。質問者は、小象の鼻の長いのを暗にからかっているわけだ。ところが、小象はそのことにまったく気づかず、「かあさんも ながいのよ」と応じる。一本取られた形の質問者は、重ねていやみな質問をする。「だれが すきなの」というのは、小象に〈甘えん坊〉とからかいたいわけだ。ところが、これにも小象は平気で「かあさんがすきなのよ」と応じる。質問者の完敗。
 このように解釈してみて、『ぞうさん』の愛される理由が私にもやっとわかるような気がしてきた。幼児は、「かあさんが すきなのよ」と大声で歌えて嬉しいのだろう。
 しかし、この詩は、大声で読むようなものではない。声を張り上げたいなら、『かあさん』(理論社『まど・みちお少年詩集いいけしき』所収)にしよう。「かぜ ふけ びょうびょう/あめ ふれ じゃんじゃか」など、やけっぱちで読みたい。伴奏のドラムがドガドガ鳴る。
 『そうさん』を大声で歌いたくなるのは、團伊玖麿の曲のせいもあるのだろう。「そうよ」が〈ソーーソミー〉となっている。〈パオ〜ン〉という感じだが、次の「あのね」も〈パオ〜ン〉ではおかしい。なぜなら、「あのね」から内緒話が始まるようだからだ。
 『ないしょばなし』(結城よしお作詞・山口保治作曲)の「あのねのね」は、〈ミミミドシー〉と、ささやくように下降している。『ぞうさん』の「あのね」もささやく感じがいいと思う。〈あなたに秘密を教えてあげるね〉という感じ。ちょっとためらい、1拍置いて〈ミレミー〉とやると、そんな感じになる。でも、その代わり、小象ではなく、小鹿になってしまいそうだ。やはり、のったりとした「ぞうさん」の部分と同じリズムで歌いたい。すると、〈ミーーミレー〉がよさそうだ。
「そうよ」を、原曲のソではなく、この小節の主音のドでもなく、ミから始めると、優しい感じになる。この音だと、「そうよ」が手放しの肯定ではなく、ややいぶかしげな印象に変わる。この小象は〈どうしてそんな当たり前のことを聞くのかな〉と思っている。
 ところで、あのいやみな質問者は、どんな人物なんだろう。
 そんなことを考えていたら、こんな詩ができた。

    ねえさん

  ねえさん 
ねえさん
  おはなが ひくいのね
   そうよ 
かあさんも ひくいのよ

  ねえさん 
ねえさん
  だれが いやなの
   あのね 
かあさんが いやなのよ
  
  かあさん 
かあさん
  よんでも こないのね
   そうよ 
そういう ひとなのよ

  ねえさん 
ねえさん
  だれが すきなの
   そうね 
 じぶんが すきかもよ

 各段の四行目は〈ミーーミレー〉で歌ってください。


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