写真説明
左上 先輩から連綿と受け継いできた品質を確実に伝承するため、裏方で醸造を支えたい
右側 近年は「自分へのご褒美」と称して旅に出るという小林直江さん。趣味は油絵やソフトボール
ウーマンズeye 私の道
それぞれの人生
小林直江さん 富士見町富里 59歳 宮坂醸造
〔記事全文〕
清酒「真澄」などの日本酒を造っている宮坂醸造株式会社(諏訪市元町)に73年に入社し、10年間は事務職
を経験しました。83年に研究室に異動してからは、研究室が私の職場です。来年の1月に定年を迎えますが、
長く働くことができたのは、「酒造り」という奥の深い仕事に、心底魅せられたからに他なりません。
◇
研究室の主な仕事は酒造全般の仕事と品質管理です。品質管理を徹底するための成分分析(アルコール
度数、糖、アミノ酸など)は、1年を通して段階的に行っています。
酒造りの期間中(10月−4月)は、醸造用水、玄米・精米の分析に加え、酵母の培養や酒母・醪(もろみ)
・麹(こうじ)の分析、品質管理などもプラスされ、目の回るような忙しさです。
研究室に移ってまず感じたのは「こんなに面白い仕事があったのか」ということでした。すべてが新鮮で興味
深く、職場に来るのが張り合いでした。酒は生き物ですから、様々に変化します。嗅覚や味覚、四角など五感を
総動員する気の抜けない毎日ですが、醸造の世界に関わり、充実した毎日が送れることを、大変幸せに思って
います。
◇
研究室での仕事を楽しみながら出来たのは、心から尊敬できる二人の杜氏との邂逅があったからです。
酒造りをイロハから教えてくれた故久保田良治杜氏は、父親を亡くしたばかりの私にとって、父のような存在
でした。知りたいことや覚えたいことがいっぱいある私に、醸造の仕事を丁寧に教えてくれました。
雨宮正徳杜氏も仕事熱心な人格者でした。高い目標を掲げ、妥協を許さない一途さがありました。「共に
おいしいお酒を造りたい」「杜氏に恥をかかせない仕事がしたい」という気持ちが、仕事に取り組む原点に
なった気がします。
◇
1級酒造技能士の国家試験は、久保田杜氏の勧めで86年に受験しました。筆記と実技(精米や麹、容器
の検定、利き酒など)の高度な内容でしたが、1回でパス。女性では県下初だったため注目もされましたが、
「この仕事にまい進しよう」と決意するきっかけになりました。
◇
大吟醸の仕込みの時期は蔵に行き、蔵人(くらびと)と一緒に醸造の仕事にも携わります。活気のある蔵の
中で、芳(かぐわ)しい香りに包まれる時、この仕事を選んだ喜びを実感します。
1年を通して朝6時半に家を出るのが日課です。冬場は特に、頭の中が100%仕事のことばかり。でも、
定年後は、全力疾走していた日常をジョギングに切り替え、晴耕雨読の日々を送りたいと思っています。
そして、「この人となら、蓄積してきたものを活かして見たい」と思える杜氏に巡り会えたら、再び酵母と対話
をしてみたい気もしています。
|