階段

私が小さい頃住んでいた家は、小さな木造の借家でした。
私はいつも二階の奥の部屋に寝ていました。
二階は、階段を上がるとすぐ右に引き戸があり、その先が六畳間で、
その六畳間の襖の向こうが私の寝ている六畳間でした。
夜、私が寝ようとすると、ほとんど毎日のように、階段を上がってくる音がします。
でも、上がってくる音は何度もするのですが、降りる音はしません。
音は、階段を上りきると、また下から上ってきます。 その音は、何度も、何度も、ずーっと続きます。
小さかった私は、一緒に寝ている両親に「ほら、音がしてるよ」と、涙ながらに訴えたこともありますが、
両親は、困ったような顔をしているだけでした。

そんなある日、いつものように音がしていたのですが、
突然、階段を上りきった音が、引き戸を通り抜けて(戸が開く音はしない)こちらにやって来るのです!
足音はどんどん六畳間を進んできます。そしてやがて、私の寝ているふすまの前まで来ました!
「来る!!」私は、今日という日はついに見てはならないものを見てしまうのか!と、観念しました。

しかし、ふすまの前まで来た音は、そこで止み、またいつものように上ってくるだけの音を繰り返していました。

この音は、私が住んでいる間、ずっと続いていました。
その家は、もうありませんが、その音が何だったのかは、今もってわかりません。


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