KT120-2段直結-差動PPの製作
-12AU7-FET_Cascode_SRPP-

【全体の構成を考える】
全段差動プッシュプルの直結回路で最大出力は、30Wを目指します。KT120は単体でかなり多くの電流を流せるため、高い出力が得られるはずです。
電源は、FETリップルフィルターで構成します。この方が、力強く、迫力のある音になるとこれまでの経験から考えています。チョークトランスは使用しません。
直結回路とするため、回路は、2段構成にします。初段はFETを使用したCascode+SRPPの差動回路とし、増幅度のアップと出力インピーダンスを低くするようにします。
初段をFETによるCascode+SRPP差動回路とし、初段の利得を稼ぐことにします。初段は、FET2SK246と複合3極管で構成します。

 Cascode+SRPPの構成とすることで、利得が高くなるため、増幅度μの値が低く、内部抵抗rpの低い複合3極管が使えるので、選択肢が多くなり ます。初段の複合3極管は、12AU7を選択、10本位から特性の揃ったものを4本選びます。KT120は、特性の揃ったもの4本を購入。

 最大出力を30W程度にするための条件を考えてみます。
◎出力トランス5kΩの場合:

110mA×110mA×5÷2000=30.25W
出力段のIP電流がKT120、1本あたり、110mAです。この条件でロードラインを引いてみます。動作点は、425V、-45V、110mAあたりです。

KT120ロードライン
KT120-loadline


これを動作させるためには、初段(12AU7)から出力段への電圧が、120Vくらいだとすると
 120V+45V(バイアス分)+425V=590V
 FETリップルフィルターでの電圧降下分が約10V。
出力トランスでの電圧降下分が、直流抵抗84Ω(ソフトンRX-80-5の場合)として
110mA×84Ω≒9Vです
590V+10V+9V=609V以上が必要です。
609V÷1.3=468V
少し余裕をもって、電源トランスの容量は、470V、500mA位のものが必要です。

この規格に合う電源トランスは、HPで探しましたが、なかなかみつかりません。
特注する必要がありますが、フェニックスというトランスを製作している会社が、個人向けにRコアトランスを販売しています。
Rコアトランス特注の場合:
470V×0.8A(AC)=376VA
6.3V×5A(AC)=31.5VA
6.3V×5A(AC)=31.5VA
10V×1A(AC)=10VA  合計約449VA
RA400というタイプのものになります。


以上の検討から、出力トランス5kΩとし、電源トランスをRコアトランスの特注として設計することにします。

使用する部品の構成

【電源トランス】
Rコアトランス特注-フェニックス(株)
RA400
470V×0.8A(AC)=376VA
6.3V×5A(AC)=31.5VA
6.3V×5A(AC)=31.5VA
10V×1A(AC)=10VA  合計約449VA
RA400:概略寸法 189x146x88、重量6.5kg
静電シールド付

【出力トランス】
出力トランス:ソフトンRX-80-5の仕様
形式 プッシュプル型
出力容量 80W/35Hz
1次巻線
5KΩ、UL端子(50%)有り
2次巻線 4Ω、8Ω
3次カソード帰還巻線 16Ω 2組
周波数帯域
2.7Hz〜50KHz -1db、入力4V、2Rp=Zp=5KΩ
1次インダクタンス(H) 最小120H、最大860H
最大1次許容DC電流 280mA(2本分)
1次許容不平衡DC電流 6mA(4mA以内を推奨)
電力損失 (8Ω負荷) 0.23db
直流抵抗値 1次P-P間: 168Ω
2次0-8Ω間: 0.17Ω
3次0-16Ω間: 4.18Ω
1次:2次、3次間耐圧 2KVAC
1次PP間最大電圧 1KVAC
使用Rコア R160 160W型コア
外形寸法、重量 W:110mm, D:100mm, H:150mm, 2.8Kg
 
(ソフトンHPから引用)



【KT120データ】

・ヒーター 6.3V 1.7-1.95A
・ヒーターカソード間電圧 :300V
・ピン配置
kt120-pin
 

【初段真空管データ】

12AU7 12AT7 5965(12AV7) 6DJ8
ヒーター 6.3V 0.3A
6.3V 0.3A 6.3V 0.45A 6.3V 0.365A
ヒーターカソード間電圧
100V 90V 200V 50V
・rp 7.7kΩ 10.9kΩ
6.3kΩ 2.64kΩ
・gm
2.2(mmho) 5.5(mmho) 6.7(mmho) 12.5(mmho)
・mu
17
60 47
33
・ピン配置



ロードラインによる利得推定
RL60kΩ/80倍  RL60kΩ/90倍 RL50kΩ/91倍 RL40kΩ/53倍
 
参考:3定数の関係
*「μ」=「gm」×「rp」
*「gm」=「μ」÷「rp」
*「rp」=「μ」÷「gm」



【初段の検討】
 初段の検討は、FETとSRPP下球の特性図を並べて、次のように検討を行います。
 2SK246の動作点を、特性図から大体、VDS=12V、VGS=-0.65V、ID=2.5mAとします。
初段の球は、12AU7とします。
12AU7の動作点は、FETの動作点から、IP=2.5mA、電源トランスの電圧から、FETリップルフィルターでの電圧降下や出力トランスでの電圧降 下、出力段のカソード電圧などから考えて、VP=120Vとします。ロードラインは、270VからRL=60k位の線です。

初段FETは差動回路になるので、入力電圧1Vとすると、ひとつのFETあたりでは、0.5Vになります。VGS=-0.65Vの点から、0.25Vずつ振ってみると、それぞれVGS=-0.4V、ID=3.2mA、VGS=-0.9V、ID=1.8mAとなります。
カスコード回路は、電流増幅となるということなので、これを12AU7のロードラインに当てはめると、120V、2.5mAの動作点を中心に、75V、 3.2mAと159V、1.8mAの点に振れます。159V-75Vの間で動作しますので、約84倍(84Vp-p)の利得が予想できます。また、 KT120の動作点のバイアス値は、-45Vなので、84Vp-pあれば十分にドライブできます。

2SK246ロードライン

 


12AU7ロードライン

 


【初段回路の検討】
 初段回路を考えてみます。
 12AU7は、μ=17 Rp=7.7です。(「電圧増幅双3極管比較表」のHPから)
RL=60kΩとすると「私のアンプ設計マニュアル」のHPによれば、上側の球の負荷抵抗値は、
負荷抵抗値(RL) = 上側球のrp + ( 上側球のRk × 上側球のμ ) + 上側球のRk
ということなので、
上側球Rkは、

Rk = (RL − rp) ÷(μ+1)
となるので、
Rk=(60−7.7)÷(17+1)
Rk=2.9kΩ
 



【出力段の検討】

出力管KT120プッシュプル、出力トランス5k(ソフトンRX-80-5-プッシュプル用5KΩ/80W)を予定。
次のとおり、2.5kのロードラインを引いてみます。出力段のIpは110mAを想定しているので、バイアス0Vのラインが220mAと交差するように、ロードラインを引きます。425V、−45Vあたりが動作点です。
初段12AU7動作点が121Vなので、120V+45V=165Vが出力段カソード電圧。
165V+425V=590VがKT120プレート電圧。
出力トランス直流抵抗(P1-B間)が84Ωなので、電圧降下は110mA×84Ω≒9V。
必要な供給電圧は、590+9V=599V>>およそ600Vになります。
 

【総合利得の予想】
このアンプの総合利得の見当をつけます。
2段直結-としますので、出力段のグリッド電圧が、初段のカソード電圧の分だけ嵩上げされ、高い電圧が必要です。電源トランスは、フェニックスRコアトラ ンス(特注)とします。動作条件は、Ep=425V、Ip=110mA、RL=5kΩp-p、バイアス=-45Vあたりを想定します。
1) 理想最大出力は、
0.11A×0.11A×5000Ω÷2=30.25W

 2) 8Ω負荷における30.25W時の出力電圧は
√(30.25W×8Ω)≒15.6V<最大出力時の出力電圧>

3) kt120の入力感度は、
    45V÷1.414≒31.8(r.m.s.)

無帰還総合利得=最大出力時の出力電圧/最大出力時の初段入力
なので、
最大出力時の初段入力(入力感度÷初段利得)を求めます。
入力感度は、上の3)から、31.8V(r.m.s.)。
初段利得は、ロードラインから推定し、約84倍です。
したがって、最大出力時の初段入力(入力感度÷初段利得)は、
上記3)から、
(入力感度)31.8V÷(初段利得)84=(最大出力時の初段入力)0.38
になります。
無帰還総合利得は
上記2)から、
(最大出力時の出力電圧)15.6V÷(最大出力時の初段入力)0.38≒41倍
になる予想です。

【負帰還】
 このアンプは、総合利得がおよそ41倍あると予想できるので、
 41倍=32dB〔20log(10)41をエクセルで計算〕
 増幅度を、10倍位とすれば、
 10倍=20dB〔20log(10)10をエクセルで計算〕
 32dB−20dB=12dB
 の余裕があります。製作後、実機での調整になります。

【電源部】
電源は、ダイオードを使い整流します。
フェニックスRコアトランス(特注、ブリッジ整流後で、470V×1.3=611Vが供給可能です。
 KT120をPPにして、1本あたりのプレート電流を110mAとすると、4本の合計で440mA。
 出力段のプレートに供給する電圧は、FETでリップルフィルターを構成し、チョークトランスは使いません。電圧降下は、およそ10V-12Vを見込みます。
また出力トランスの直流抵抗が、1次P-P間で128Ωと推定されるので、電圧降下は84Ω×110mA=9V。
 電圧降下は、合計で10V+9V≒19Vになりますので、611V−19V=592Vがプレート電圧に供給可能です。





【回路図】


 

 
【電源回路図】





【マイナス電源回路図】


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