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#100[朝]

 離婚することに決めた。だから、その話をする。ちょっと来い。
 またか。うんざりだ。
 ボクは、不機嫌な声を漏らし、動かなかった。今度、呼ばれたら、近づくまい。そう、昼間から決めていた。
 父は苦笑いし、心弱げに母を見た。母は、父の仕草など眼中にないかのようで、尖る目を虚空に突き刺す。
 二人は、意外にも、あっさりと諦めた。
 (いや、「息子のやつが離婚を嫌がってね」という話に作り替えられたか。そして、ボクは、ボクの行動がそんなふうに利用されるのかもしれないと思っていながら、諦めたのだったか。離婚に関する「相談」を拒否することは、離婚に反対することとは、違う。だが、彼らは、話をすり替えるのだろう。すり替えを指摘されたとしても、ボクの本心を読み取ったなどと言い張ることだろう。ボクには本当のことを言う能力がないのだから。ああ、確かに、その通りだ。だが、本当のことというのは、全く別のことだ。チェッ、チェッ、チェッ! もし、そこまで、分かっていたとしても、ボクは諦めなければならなかった。仕方がなかったんだ。先のことは、考えられなかった。とにかく、もう、くたくただった)
 彼らは、「戻って来い」と言わなかった。そんな素振りさえ、認められなかった。なぜだろう。ボクが二度と振り返らなかったからだ。
 フウ。
 静かだ。
 聞こえるのは、妹の寝息か。
 妹は、妹の場所で眠っている。ボクも、ボクの場所で眠ろう。
 とにかく、今夜は眠ろう、彼らが、新しい、恐ろしい、悲しい遊びを思いつくまで、朝まで。


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