漫画の思い出

著者別「す」

杉浦茂
『猿飛佐助』
一見、のんびりした絵の中で、激しい戦闘が続いていることに驚かされる。限られた枚数で精一杯のサーヴィスをしようという、ありがたい精神だ。
漫画という言葉は、こうした作品のためにあると思う。時代を越えた仕事。永遠のこどものための作品。考える前に、笑え。
こどものうちに、[ナンセンスなものに接したら笑う]ということを体に覚えさせておかないと、おとなになっても、[良い意図や目的をもっているようだが、実は耳に心地よいだけで、非現実的で無責任で不合理だ]と思われる言動に接したとき、[反対する前に、まず、笑う]といった歯止めが利かず、[どこか、おかしい]とは思いながらも、[反対しづらい]という思いに負けて、ズルズルと引きずられ、結局、騙されて、大損をして、しかし、同情はされず、[まるで漫画だ]と笑われるはめになる。
杉浦幸雄
『アトミックのおぼん』
小島功の前は、杉浦だった。
婀娜な女盗賊が、弁天小僧よろしく、着物の裾をチラチラというポーズには、今でもときめきを覚える。
杉浦の絵には、男と女は肌を合あわせればなるようになるもんだとでも言いたげな、暢気で放埒な気分が漂う。それは、「いい女」の幻想に酔っていられた時代の気分でもあったろうが、まずは作家の気質だろう。
へらへら、笑い、ぐずぐす、揺れる、骨のない女と男。どこにでもありそうで、これといって思いつかない、特異なタッチ。


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