Kさんの俳句のページへようこそ

2022〜2023年


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2023年
(令和5年)

 


12月の句



相続の一つに母の茎の石



手捻りの指のくぼみや冬ざるる



鉄橋の音のつれなさ川涸るる



クリスマスリボン掛けても武器は武器








11月の句



月明かり満つ大小のピクルス瓶



一席の菊に翁にリボンかな



打ち連れて早瀬滑るや散紅葉



冬めきて靴下売り場華やぎぬ





 


10月の句



窓際に寄せる文机秋夕焼



秋澄む日友とのハグの四年ぶり



匂立つ昨日の今日の苅田かな



透明に積もりゆく秋思の欠片










9月の句



木目立つ濡れ縁の夏終わりけり



芋畑大きな夜を支へをり



上る(のぼる)有為転変の面構え



綿雲の東京優し秋澄みぬ





 




8月の句



経糸を抜ける潮風島上布



忘れ得ぬたった五センチ流れ星



夫婦して朝から無口軒風鈴



羽抜鶏都会育ちの娘を起こす



枝豆に姪の恋話(こいばな)当世風



雨戸繰るいつもの朝に爽やかさ





 
 


7月の句



子の部屋の緩き拒絶や夏暖簾



水音マックス失恋の髪洗う



緑陰に出発前の鼓笛隊



香水店女主人の高い鼻



手庇を掲げ土用の待合せ



夏帽子二度寝の夢に置き忘る






 


6月の句



夏立つや若き庭師の腰手拭い



島行きの搭乗案内明け易し



菅笠の冠り心地や鮎解禁



古箪笥捨てる成り行き更衣



花よりも擬宝珠の葉の十重二十重



レース編むとうとう母と同い年








5月の句



本棚に作るスペース若葉風



白髪となり身に添へり薄衣



風薫る法隆寺にもエンタシス



駒下駄の急く先三社祭かな



刻むのに破らぬように剥くキャベツ





 

 


4月の句



大叔母の聞こえぬ振りや紫木蓮



花冷やひとつ足りない銀の匙



撮る人も花盗人の歌心



風見鶏見守る巣箱まだ空き家



春装の素早く曲がる五番街








3月の句



春ショール戦言葉に慣れぬ耳



記念樹に集ふ約束桜まじ



修復の指のふくやか御開帳



バゲットの焼き上がり待つうららかな




   




2月の句



壁いっぱい並びし「平和」鏡割



南天の一枝を添ふる寒見舞



夕東風の八百屋葉物を奥に置き



公魚と小指を競ふ釣りガール



立春の子らを吸ひ込む小学校




 

 


1月の句



家長てふ顔をつくりし御慶かな



初暦変はりたきこと変へぬこと



慈しみ育てるやうに炭火吹く



初天神暗算速し的屋の子



冬薔薇茎に微かな水の道


 


2022年
(令和4年)

 


12月の句





十一月パイを美味しく焼く呪文



大泣きの子の通りゆく花八つ手>



熱燗の儀式めきたる一本目



木杓子のきれいに浚ふ蟹雑炊



四季の色地層に重ね山眠る





11月の句





引き波の滑る速さや秋の夕



冬菫買ふシスターの小さき声



川明かり鋼の色に冬立てり



関八州手荒に換気空っ風








10月の句





重心の僅かに浮いて天高し



国宝展出づ極上の秋晴



付き纏ふ殻もありけり落花生



沢越しに鹿と目の合ふ握り飯



秋深し風に動かぬ風見鶏










9月の句





縦書きの文の余白や吾亦紅



束ねても露草に青三つ四つ



秋風を乗り継ぐ旅や草の種



啄木鳥の空き家あります国有林





 


8月の句





水軍の末裔優しきサングラス



潮待ちの海月たゆたふ船溜り



ぎいと鳴る浮桟橋や秋立ちぬ









 


7月の句





蓮の花その迷ひ無き輪郭線



風神の子ら駆けゆけり青田波



新宿に降り立ち重き登山靴



炎天の島へ満席直行便



鰻食ぶ独居に戻りゆく父と








6月の句





父の日や次女は駄洒落によく笑ふ


バナナ食み相槌も打つ古女房


電柱に蟻一匹の冒険心


傘といふ一人の世界梅雨の街


透き通ることの美し夏料理








5月の句
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筍を茹でる大鍋鋳掛け痕



蔵の戸の開け放たれて麦の秋



東大に通ふ新弟子五月場所



葉桜や急ぐでもなし遅刻の子



呆気なく恋は終はりぬ心太







4月の句




我が町も桜自慢の案内図



桜山ピンクの地層眠りをり



酸っぱしと念押し配る夏蜜柑



トレモロの瀬音清けし山葵沢



母在れば娘となりし大朝寝



もう会えぬ人に会いたき朝寝かな



引き算の幸せ慣るる春深し






 


3月の句





燥ぐのはいつも弟雛の段



ただいまのハンカチ蕗の薹三つ



花すみれ吾子の前では若い振り



暖かやとんと忘るる仲違ひ





 


2月の句





剪りつめて今年の形梅の庭



枯れ枝にわけへだて無き陽の光



回廊の長さを滑る春一番



山門に今日の一言囀れり






  


1月の句





酒樽も積まれ招福初芝居



餅花の薄紅ほろり楽屋口



恋歌に要らざる字幕雪もよひ



今ならば上手く話せる日向ぼこ