12月の句
独り居の父の針箱小六月
薬草を吊るす軒下山眠る
青い目の炉語り地球の歩き方
メレンゲの白きふわふわ神の留守
葉牡丹の花にはならぬ役どころ
ボロ市の店主布袋と並びをり
針先にきらり冬晴縫ひ込みぬ
風呂敷をほどく歳暮のありし頃
大皿を抱え出でたり年用意
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11月の句
短日や点くまで三秒蛍光灯
蒸かし芋はふはふラジオよりシャンソン
マフラーに包むチェロの音ホール出づ
都鳥それからのこと聞かせてよ
(鶴下絵三十六歌仙和歌巻)
宗達の鶴の自在や空無辺
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10月の句
過去ばかり大きくなりぬ秋の海
雁渡る歪なままの世界地図
秋晴れのやっぱり憂鬱月曜日
秋高し牧草ロール転がりそう
美しき点と線なり吾亦紅
いち早く夜に呑まれし秋の蝶
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9月の句
新蕎麦や姥捨山は低き山
鰯雲ほぐれ蓼科山円し
秋薊高原バスに追ひ抜かる
直伝のお萩は小ぶり秋分の日
深入りはせぬやうに聞く新酒かな
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8月の句
絶望の微分積分カンナ燃ゆ
鋲の錆舐める蜥蜴や大手門
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7月の句
土地の子の招く近道夏の浜
ほろ酔ひの三線の音や月涼し
冷麦でいい冷麦がいい老夫婦
ワンピース着ている今日はソーダ水
汝が重さ知らぬ赤子の跣足かな
涼しさや山裾に置く家十軒
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6月の句
雷門車夫のピアスの薄暑光
一匹の蟻の逡巡竿の先
紫陽花や幸福そうな井の頭線
お喋りなスマホの画面五月闇
尼寺の門柱代わり夏蜜柑
裏窓を夏至の朝日の起こしをり
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5月の句
上澄みに詩浮かびけり春愁
タクシーを起こすノックや目借時
山吹や友は木戸から来る習
一粒の雨の重さや若楓
黒南風や刈り込み鋏ためらはず
拝啓の文字夏めくやガラスペン
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4月の句
クローバー蹴って紙飛行機空へ
こぼれゆく菜の花明かり千曲川
姫さまも越えし木曽路やひこばゆる
ぶーらんこパパの匂ひの抱っこ紐
歓迎会幹事去年の新社員
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3月の句
蛍烏賊網の形に光りをり
安曇野に色差しゆけり春の水
癒えて先づ窓拭きにけり春の風邪
雛菊の白より始む新居かな
教室の時計合わせる新教師
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2月の句
聞くだけは聞いてやらねば春炬燵
信濃路はまだ覚め遣らず春の霜
摘草のモンペの尻の喋りをり
腹の子と二人の重さ麦を踏む
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1月の句
ブランチは餅三つ焼き夫婦箸
泥大根産湯の如く洗ひをり
寒牡丹五重の塔に怯まざる
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