Kさんの俳句のページへようこそ

2024〜2025年


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2025年
(令和7年)

 


4月の句



 少女らの見えない翼春の服



野遊びやおにぎり詰めし蒔絵重



クローバー更地は過去の無い四角



鍵ひとつ遺る生家や初燕



大川も空もベロ藍鐘霞む




 


3月の句



 飛び石を降り残したり春の雪



春時雨銀の沙子を蒔くやうに



アネモネの小さな欠伸授乳室


       
 (あ) (あぶく)  
春の潮ヴィーナス生るる泡かな





 


2月の句



 着膨れて列なす銀座ワインバー



白馬飼ふ農芸高校春の泥



春一番二番三番漁夫の目



百歳の指曲がりをり針供養






1月の句



 九頭の龍より斉し井華水

   (箱根九頭龍神社にて)



  夫採りし青菜俎始かな



新年会抜けてトランプ下の叔父



御神渡り恋路といふは猛々し







2024年
(令和6年)

 


12月の句



独り居の父の針箱小六月



薬草を吊るす軒下山眠る



青い目の炉語り地球の歩き方



メレンゲの白きふわふわ神の留守



葉牡丹の花にはならぬ役どころ



ボロ市の店主布袋と並びをり



針先にきらり冬晴縫ひ込みぬ



風呂敷をほどく歳暮のありし頃



大皿を抱え出でたり年用意






 


11月の句



短日や点くまで三秒蛍光灯



蒸かし芋はふはふラジオよりシャンソン



マフラーに包むチェロの音ホール出づ



都鳥それからのこと聞かせてよ



(鶴下絵三十六歌仙和歌巻)

宗達の鶴の自在や空無辺






 


10月の句



過去ばかり大きくなりぬ秋の海



雁渡る歪なままの世界地図



秋晴れのやっぱり憂鬱月曜日



秋高し牧草ロール転がりそう



美しき点と線なり吾亦紅



いち早く夜に呑まれし秋の蝶







 


9月の句



新蕎麦や姥捨山は低き山



鰯雲ほぐれ蓼科山円し



秋薊高原バスに追ひ抜かる



直伝のお萩は小ぶり秋分の日



深入りはせぬやうに聞く新酒かな





 


8月の句



絶望の微分積分カンナ燃ゆ



鋲の錆舐める蜥蜴や大手門





 


7月の句



土地の子の招く近道夏の浜



ほろ酔ひの三線の音や月涼し



冷麦でいい冷麦がいい老夫婦



ワンピース着ている今日はソーダ水



汝が重さ知らぬ赤子の跣足かな



涼しさや山裾に置く家十軒






  


6月の句




雷門車夫のピアスの薄暑光



一匹の蟻の逡巡竿の先



紫陽花や幸福そうな井の頭線



お喋りなスマホの画面五月闇



尼寺の門柱代わり夏蜜柑



裏窓を夏至の朝日の起こしをり





 


5月の句



上澄みに詩浮かびけり春愁



タクシーを起こすノックや目借時



山吹や友は木戸から来る習



一粒の雨の重さや若楓



黒南風や刈り込み鋏ためらはず



拝啓の文字夏めくやガラスペン





 


4月の句



クローバー蹴って紙飛行機空へ



こぼれゆく菜の花明かり千曲川



姫さまも越えし木曽路やひこばゆる



ぶーらんこパパの匂ひの抱っこ紐



歓迎会幹事去年の新社員





 


3月の句



蛍烏賊網の形に光りをり

 

安曇野に色差しゆけり春の水

 

癒えて先づ窓拭きにけり春の風邪

 

雛菊の白より始む新居かな



教室の時計合わせる新教師





 


2月の句



聞くだけは聞いてやらねば春炬燵



信濃路はまだ覚め遣らず春の霜



摘草のモンペの尻の喋りをり



腹の子と二人の重さ麦を踏む






 


1月の句



ブランチは餅三つ焼き夫婦箸



泥大根産湯の如く洗ひをり



寒牡丹五重の塔に怯まざる