ばあさんは、日銭も稼げないじいさんに、見かねて村の追分に小さな
茶屋をはじめたと。
じいさんと言えば、行きかう旅人に壺や器を取り出して、
「この国の名もない先人達が丹精こめて造った逸品じゃ。時を越えても
心に残る温もりを、一度は手に触れて見ておくれ」と興味本位の口上で
面白おかしく語りかけている。
人生の壷の語り草は、物の見方や考え方で夢と希望が湧いてくる。
一期一会の旅人も「目からウロコが落ちたよ」と名残惜しいと旅立った。
ばあさんが入れる美味しい茶と人生の器の語り草に、都でも評判になり、
遠方からも訪れる人もちらりほらりとあったとか。
しかし、
多くの旅人は、「古い物など見る価値何処にあるか」と通り過ぎた。
ばあさんの日々の稼ぎは知れたもの、僅かばかりの小銭では、じいさんと
ポチに食べさせることで精一杯、自分の物を切り詰めて、
「じいさんの夢、何時まで待てばよいのやら・・」不平をこらえて日々尽くしたと。
そんなばあさんの唯一の楽しみは、子犬の頃から可愛がってきたポチとの
散歩と道すがらに何気なく咲く雑草の花の香りが、心の疲れを癒してくれた。
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