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#011[声] まだ、書くことがあるのか。ない。いや、ある、ちょっと。 [私は、誰に向かって呼びかけているのでもない]ということについて、書く。私は、[自分が誰かに向かって呼びかけている]と思うだけで、苛立つ。[宿題]の物語の中の宿題に出てくる物語の中の森の中で、「おーい」と呼んでいたのは、私の分身ではない。 「オーイ、オーイ」 呼んでいたのは、父だ。聞いたこともない、太い、弱い声だった。私は思い違いし、返事をした。だが、父は、なおも呼び続けた。寝惚けている。 目覚めて起き上がった父に、からかった。やられたらやり返すのが父なのだが、どうしたことか、反応がない。誰もいない正面を向いたまま、ぼそっと「みんな、行ってしまった」と言った。 「みんなって?」 答えない。質問さえ耳に入らないふうだ。溜め息をつき、顔を両手で、ごしごし、擦り、ふっと立ち上がり、部屋を出た。 「みんな」とは、誰なのだろう。戦友? 私は、私には踏み込むことのできない世界が、父の心の中にあることを感じ、一抹の寂しさを味わった。とでも書いてやれば、拍手喝采する読者がいる。離乳食のような、口当たりのいい物ばかり食べたがる、歯抜けグルメ。彼らの褒め言葉は、[甘い]と[柔らかい]だ。 実は、私は、父にも落ち着くべき世界がないのを察し、ひやりとしたのだった。 「戦争が終わったとき」と、父は言った、「俺の人生も終わった」 私は、縋るように何事かを言いかけようとした。しかし、自分の言葉に酔った人間の目は、飴玉のようにとろけ、不気味で、私は言葉を飲んだ。そのとき、私は何を言おうとしていたのか。ああ、そうだった。[終わった人間から始まった私は、二重に幽霊のようなものだ]というようなこと。 「みんな」とは、誰か。 私は、父の母親について、何も知らない。そのような人物がこの世に存在していた痕跡すらない。父のアルバムを見ていて、知らない女の写真があった。尋ねると、「よその人だ」と言って、そっぽを向いた。 「みんな」とは、誰か。「みんな」とは、もともと、[私]から去って行く人々のことではないのか。 |