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#019[世界]01

  私の権力も名誉もみんな この女が ぶちこわしたのよ 私のプライド
 は メチャクチャよ! みんな この女のせいよ 私の世界をこわすやつは 
 だれだって ようしゃしないわ だれ一人 私を犯すことは できないのよ、
 もし そうしたら 殺すわ! 
                   (一条ゆかり『風の中のクレオ』)
  子どもが生れてその子どもを育て始めた時、私は自分の世界が崩れて
 しまったことを痛感させられました。それほど悪い人間でもないはずだっ
 た自分、子どもが大好きというわけではなかったにせよ、それほど嫌い
 というほどでもなかったはずの自分の中に、子どもに対する暖かい思い
 やりよりもむしろ苛立ちと怒りと憎悪ばかりが見えたからです。
 (山下公子「訳者あとがき」、A.ミラー『魂の殺人 親は子どもに何をしたか』)
  「うーん、司祭にシスターか。見なかったわねえ。でも、少し前に旅をして
 いるってパラディンは来たわよ。仮面で顔を隠していたけれど、きっと素
 敵な人だと思うわ。少し陰りがあって……そこがまたたまらないのよォ!」
  話の途中から、彼女は自分の世界に入ってしまった……。
          (千田幸信編『ゲームブック FIRE EMBLEM 紋章の謎』)
  恋愛は自由? なにを言ってんだよ、なに自分の世界に入ってるんだよ。
  (イッセー尾形+森田雄三「みっちゃんの出戻り編」、『イッセー尾形の
   ナマ本(巻壱)深夜生活編』)
  イメクラに来る人って、クライっていうの、自分だけの世界に入りたが
 る人が多いでしょう。
                (伊藤裕作『ナマ録 淑女のひとりごと』)
  あんたはね、どこへ行ったって、何ひとつ知るわけない! 夢の世界に住
 んでるんだから、幻を作り上げてるんだから! 
            (T.ウィリアムズ『ガラスの動物園』松岡和子訳)
  デカルトには世界が住んでいたが、コンディヤックは世界に住んでい
 た。
          (ラス・ライマー『隔絶された少女の記録』片山陽子訳)
  宮沢賢治は世界を作り世間を作れなかった
                 (荒川洋治『美代子、石を投げなさい』)
  「ロメリア」の祭り─つまりフラメンコ・パーティーであるが─のた
 めのジプシー衣裳である「トラヘ・デ・ルナレス」を身につけることによっ
 て、良家の若い娘や婦人は、愉快に楽しむことを不可能にしがちな、過剰
 な「ベルグエンサ」から解放された感じをあじわうことができる。はじら
 いが期待されないジプシーに仮装することを口実にして、彼女たちはい
 つもの慎みの一部を消しさることができ、それでいながら同時に、決して
 本気にジプシーと受けとられることはないのである。このようなジプシ
 ー信仰をとおして人びとは、恥を知り敬意を示す態度─社会構造から
 の束縛であるが─を求める社会の制裁によって邪魔されることのない
 行動領域に参加することができる。ジプシーたちは彼らの階層(カスト)のも
 つ特権のおかげで、倫理共同体の外にあるがゆえに、そのような拘束から
 解放されているようにみえるひとつの世界を提供することができるので
 ある。
          (J・A・ピット=リバーズ『シエラの人びと』野村雅一訳)
   the gap between the real world and a women's version of the 
 world 現実の世界と女の考える世界との差
             (「小学館ランダムハウス英和辞典」"version")
  デズデモーナ 私だったらこの世界をもらえても絶対そんな罪は犯さ
 ないでしょう。
  エミリア でも、それが罪だというのはこの世界のなかでの罪でしょ
 う、そして自分で汗を流してこの世界を手に入れたら、それは自分の世界
 のなかでの罪になるわけでしょう。だったらすぐに自分で罪ではないこ
 とに決めればいいじゃありませんか。
             (W.シェイクスピア『オセロー』小田島雄志訳)
  そうだ、創造の遊戯のためには、わたしの兄弟たちよ、一つの神聖な肯
 定が必要なのだ。いまや精神は自分の意志を意欲する。世界を失った精神
 は自分の世界をかちえるのだ。
            (F.ニーチェ『ツァラトゥストラ』吉沢伝三郎訳)
  分らない。あんたのいうことがなんにも分らない。さっきの人たちとお
 んなじだわ。口の動くのが見えるだけ。声が聞こえるだけ。だけど何をいっ
 てるんだか……ああ、あんたは、あんたが、とうとうあんたがあの人たち
 の言葉を、あたしに分らない世界の言葉を話し出した……ああ、どうしよ
 う。どうしよう。どうしよう。
                         (木下順二『夕鶴』)
  つまり、そこに、すべての悪があるんです! 言葉というやつのなかに! 
 わたしたちはみんな、心のなかに、いろんな事情の世界を持っています。
 各人各自の事情というものを! だから、先生、いくらわたしが自分のなか
 に持っている、事情からくる感じや評価を、自分の言葉のなかに盛ったと
 しても、一方、それをきく者はきく者で、自分が持っている世界から、独特
 に抱く感じや評価で、受けとるんですから、どうしてわれわれは、理解し
 あうことができましょう? わたしたちは、おたがいに理解しあっている
 と信じています、しかし、絶対に理解しあっちゃいないんです。
     (ルイジ・ピランデルロ『作者を探す六人の登場人物』岩崎純孝訳)
  実際、物語行為は、それがおこなわれる世界からしか意味を受け取るこ
 とができない。物語行為のレベルを越えると、世界、つまり他の体系(社会
 的、経済的、イデオロギー的)が始まり、その諸項はもはや物語だけにかぎ
 らず、他の実質に属する諸要素(歴史的事実、限定関係、行動、など)とな
 る。
            (ロラン・バルト『物語の構造分析序説』花輪光訳)
  人は世界と一体をなす一個の書かれたものを基底として語り、それに
 ついて際限もなく語りつづけ、次にはその記号(シーニュ)のそれぞれが書か
 れたものとなって、さらにあらたな言説(ディスクール)を招くのであるが、おの
 おのの言説(ディスクール)は、この最初の書かれたものに呼びかけながら、その
 回帰を約束すると同時におくらせるのである。
 (ミシェル・フーコー『言葉と物 人文科学の考古学』2-4、渡辺一民+佐々
  木明訳)
  諸宗教が存在するという事実は、個々人が絶え間なく善であることが
 不可能だということの証拠となるか? 開祖は善から身をもぎ離して、開
 祖としての自らを具現する。彼がそうするのは他者のためか、あるいは他
 者とともにあることによってのみ元の彼のままでいられると信じている
 からか、彼が世界を愛さなくてもすむためには「世界」を破壊する必要が
 あるからか? 
            (フランツ・カフカ「アフォリズム」吉田仙太郎訳)
 


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