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#027[世界]06ドラえもんの苦笑

  のび太「人げんがひとりといぬが1ぴきで 1+1=2 だ。」
  ドラえもん「それは違うよ。」
  のび太「?」
  ドラえもん「2は いいけど ふたりというの? 2ひきというの?」
  のび太「それは ひとりと1ぴき…… あれ?」
  ドラえもん「おなじ 人げんなら、ひとり たす ひとりで、ふたりに な
 るけど、なかまが ちがうと いいかたが かわるだろ。」
   とり 2わと、ねこ 1ぴき
   バット 1本と、ボール 3こ
  のび太「そうか、たしざんは、おなじなかまにしか つかえないわけだ
 ね。」
  ドラえもん「そうだよ。」
  のび太「それじゃ、どうぶつクッキーは、みんな ちがう かたちだから、
 たせないな。」
  ドラえもん「クッキーは クッキーで、みんな おなじだよ。」
   (小林敢治郎『ドラえもんの算数おもしろ攻略-たしざん・ひきざん』)
 「クッキーは クッキーで」と言いながら、この偽典のドラえもんは汗の粒を飛ばし、苦笑する。私は、冷や汗をかく。
 何と何が同じ仲間なのか、問題に先立って決めることはできない。私達は、形の違うクッキーを足すこともできれば、足さないでおくこともできる。[仲間の言葉]は、[世界]設定以前には決まらない。クジラは魚類ではないが、漢和辞典では魚偏に出ている。数詞を目安にすれば、饅頭と羊羮は足せないのに、羊羮と箪笥は足せることになる。数詞は単位ではないし、単位が同じでも、例えば、大豆1合に胡麻1合を混ぜても、実際には、2合にはならない。こういう場合は、重量で計算する。私達は、演算が意味を持つように[世界]を設定する。70℃と80℃の湯を混ぜても、150℃にはならない。そのわけは、[水は、100℃以上にならない]からではない。20*/hで走る人が二人、手を繋げば、40*/hで走れるというのなら、マラソンの世界記録が簡単に破れる。午後7時に午後8時を足しても、午後15時にはならない。翌日の午前3時にもならない。そもそも、時刻に時刻を足すとは、どのような話か。1時の1時間後を求めるのに、[1(時)+1(時間)]として計算するのは、無意味だ。では、どう考えればいいのでしょうか。宿題にします。2円で買った壷を返品し、代金の2円を足して、4円の壷を持ち帰るのは、『壷算』
 科学にも[世界]がある。例えば、「南中」「黄道」「天球」などといった用語は、天動説が[世界]になっている。天動説は、現代人にとっては、真理でも、信念でもないが、実感に近いので、その[世界]を利用する。
 [面積は、縦の長さと横の長さの積だ]とか、[平面が高さをもつと、立体になる]などといった主張をされると、困る。演算に先立ち、基本になる直線、平面、立体を決めなければならない。小学校では、三角形の面積を求める公式を学習する前に、直角三角形の面積を求める問題が出るから、基本になる面積について、ごまかして教えられると、子供は混乱する。平面と立体が、それぞれ、個別の[世界]に属することを、きちんと押さえておかないと、[1*×1*=1*2]で、[1*2×1*=1*3]なのだから、[1*3×1*=1*4]と記述できる何かが存在するはずだといった話に発展するのを、止められない。
 かの有名な、ゼノンのパラドックス、[アキレスは、亀に追いつけない]というのは、要するに、[追いつくまでは追いつけない]と言っているわけだが、しかし、そのような反論では、問題は振り出しに戻るだけだ。グラフを書いて見せたり、加速度といった概念を拵えたりするのも、あなたが実際に走って亀に追いついて見せるのと同じくらい、無意味だ。運動は、実体なのか、観念なのか。いや、その前に、実体とは何で、観念とは何か。[追いつかないように設定したから、追いつかない]という批判が真っ当なものなら、[追いつくように設定したから、追いつく]という反批判も真っ当なのではないか。
 あるいは、この問題は、もう一捻りしてあるのかもしれない。ゼノンは、[自分は、問題など、出したつもりはない]と開き直るのかもしれない。[これを問題だと見做したのは、あなただ。これが問題かどうか、まだ、分からないのに、せっせと解き始めたあなたにこそ、問題はあるのではないか。そもそも、問題とは、何のことか]
 私の言動が、あなたにとって、[問題]だとしても、なぜ、私は、私の言動を、[私の問題]として捉えなければならないのか。あなたの見つけた[問題]があなたに解けないからといって、なぜ、私に答える義務が生じるのか。


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