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#031[窓]

 [日記/19920508]
 昨夜、霊の話をしていて、小学校の頃、手足のない、内蔵のない肉の幻に悩まされていたことを思い出し、じわじわと分かってきたことがある。それのぶら下がっていた場所が、問題なのだ。その下で、両親は、別れ話を、私に聞かせた。つまり、そこは、私にとって、恐怖の空間だったわけだ。
 書きながら思い出した。
 私は、その時に、あの像を得たのではない。後から見た写真か、戦争映画の一場面と結び付けたのだろう。解剖図か何か、虐殺の写真だったかもしれない。その絵か写真かを、その場所に結び付けようとした記憶がある。
 (と、私は、2年ほど前の日記に書いている。だが、今、何かと結び付けようとしたという印象は薄い。あれは、人体標本か、皮を剥いだ)
 嘘だと分かっていながら、わざと怯えようとした。
 (その記憶なら、うっすらとある)
 だから、どことなく冗談めいた気分があって、そのことはちゃんと自覚していた。
 (いや、思い出せない。どんな自覚?) 
//2年前の日記を写し始めて、1か月以上が経過した。その間に、冬が来た。キーを叩く指が、冷たく感じられる。世の中では、いろんなことが起きた。以前から始まっていた「政界再編」が更に進行した。妻子を殺した、若い医師が、逮捕された。子供が、苛めが原因で、また、自殺した。その間、私はゲイムに逃避していた。日記を写すのが、つらかった。
 目を閉じると、瞼の裏を、しつこく、動き回る、頭痛や吐き気を催させる、小さな人達。
 人生で何かをやり遂げたと感じるのは、ゲイムを終了したときぐらいだ。
 RPGに初めて挑戦したとき、町の人と話をするのが照れ臭く、頭でっかちの勇者は、こそこそしていた。一度聞いた話を聞き直すのは、悪いことのような気がした
 母は、私に言った、[人に道を尋ねてはいけない。人は、皆、それぞれ、用事を持っている。どうしても分からないようなら、タクシーに乗りなさい。タクシーなら、お金を払いさえすれば、すぐ近くでも連れてってくれるから]と。あるとき、乗ったタクシーの運転手は、行き先があまりに近いので、恥ずかしそうに料金を受け取った。メーターを下ろしてしまったから、どうとか、こうとか、しなくてもいい言いわけをさせてしまった。逆に、わざと遠回りされたこともある。
 会話によって物事を解決するという発想を得たのは、RPGによってだ。
//(日記の続き)二つの絵を合わせれば、事態は明瞭になる。1枚の絵では、誰もいない部屋の天井から、燻製のような、それがぶら下がっている。その場所は、奥の部屋の床の間と勉強机の間だ。もう1枚の絵は、同じ場所で、父と母が座っている。左に父、右に母。二人は、向かい合って座っている。
 (違う。二人は、向かい合ってはいない。二人は、子供を斜めに見ている。キャメラが引くと、見られている子供の背中が見える)
 手前に、私が背を向けて座っている。
 (座っている私の背中が丸い。項垂れているので、首がないように見える。しかし、[人と話をする時は、目を逸らすな]とでも言われたか。岩のような、無用の頭部が持ち上げられるところだ)
 彼らは、「離婚することに決めた」と宣言する。そして、私に、「どちらについていくか、決めろ」と迫る)
//私は、発掘した。少年の私を怯えさせていた、あの黄色の肉は、芝居がかって決断を迫る父、母の顔から逸らされる視線の張り付く窓の、いつ明けるとも知れなかった夜の窓の、ほのかに明ける朝の窓の、明かり取りの高い窓のあたりにぶら下がる物だったか?
 [夢/19941031]
 路上。商店街から、横道に。図書館の近く。いくつもある筋を、北、東、南と、コの字形に歩き、民家の前、毛の抜けかけた犬、1匹。痩せた、ぶちの(?)中型犬が来る。野良犬か。私は、次第に危険を感じる。さっきまで、妙に浮ついた気分で歩いていた。
 私は、民家の呼び鈴を押す。(その家に逃げ込もうとして?) 低い、灰色のブロック塀? (塀はない? 隣は新しい空き地) 門から、すぐに玄関。格子の入ったガラスの扉? (その家は実在する)
 犬は、寄って来る。私は、手にしていた黒い鞄を放り出す。それが狙われているようなので。ぱんぱんに膨らんだ、革の手提げ鞄。学生用? 革は古びていて、端が反り気味。投げ出された鞄に、犬は噛み付くようだ。革に興味があるのか。死んだ親犬の革か。(狐忠信〜?) 不可解。懐かしそうではない。
 (最高に勃起して目覚める。尿意はない。体、どこか、元気になった感じ?)


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