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#036[春]

 ふと、Lの詩の一節を口ずさむ。20年ほど前、私が節を付けた。ただの詩だと思っていた。でも、そうでもなかった。詩でさえなかった。ただの言葉だ。

 3/4**|****|**|******|♪*♪|***♪|***|**|
   f e f g a     f e f g a A g g a b♭d♭ f d 
   ナ ン ニ モ -     カ ン ガ エ テ ク レ テ イ テ ハ  イ ヤ 

   **♪|*****|**|******|**|***|*|**‖
     e f e f g a    f e f g a a g g c′e′f′ e′ e′
     ア - タ イ ノ -    コ ト ナ ラ - ナ オ サ ラ ニ イ ヤ - 

 節は、少し変形している。もともと、いつも同じようには歌えなかった。他人に聞かせる歌ではない。
 歌を作っていたことさえ、他人事のようだ。歌を忘れようとした。恐れようとした。音と意味が馴れ合えば、何でも歌になるから。そんな恐れも、歌になるから。
 帰宅したLに、歌を思い出したと言うと、Lも、近頃、思い出して口ずさむ歌があると言う。私の歌だ。これも、同じ頃に生まれた。

 4/4 ♪*♪*♪|*♪****|♪*♪*♪|****|
   g g f g f  d c d f g♭ g g g g f   g♭
   ハ ル ノ ヨ ハ  ト オ ボ エ ノ マ ケ イ ヌ ガ   チッ
                 
   ******♪*|**********|
   g g a d′b♭b♭a  e♭d d♭d d g a g g♭d
   シ タ ウ チ シ タ ラ  じ す て ん ー ぱ あ ー ー ニ

   ♪*♪**♪|**♪*♪**|*|**|〓2〓‖
   a g b♭e♭ b♭ c′c′c′c′b♭a b♭ b♭ b♭
   ソ ラ マ タ じ  す て ん ぱ ー ゴッコ  -  -
           (b♭b)           (b♭b)
   **♪***|****|**♪**♪|****|
   b♭c′c′b♭a f  f d g   a b♭c′b♭a f  f e♭e♭g
   ク ビ ワ ガ ア レ  - バ ナ   ク ビ シ メ ナ イ  - ヨ ウ ナ
                    3
   ***|**|*♪**♪*♪|*******|〓4〓|
     e♭ d    c d e♭g b♭g  a a b♭a g a d′
     ゼン ゼン   イ タ ク ナ クッ-  テ - - - - - -

   ♪***♪*♪|*****|〓2〓‖
   g  g f g g f  d c d f
   チョッ ト シ ン ダ フ  リ デ キ ル

 今度、音を譜に拾うために、おもちゃのようなキーボードを買った。拾われると、音は変わる。作るまいとする意志と、変わろうとする音が闘う。思い切って出したい音を出してやると、昔の音は消えがちになり、実は、昔の音の奥に今の音が潜んでいたように思えてくる。
 思えば、当時の私のルールは、出したい音を出さないことだったようだ。出たがる音と出したい音は、違う。迷えば、単純な音を選んだ、たとえ、その音が私にとって不快なものであったとしても。出したい音は、聞かれたい音だ。私は、聞く耳のためには何もしてやるまいと、固く、心に決めていた。


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