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#093[青]06 (私は、Bを好きになれなかった) 廃墟の街を、首輪の跡の白い犬が嗅ぎ回る。首輪を探しているのかな。首輪なら、もう、ないぞ。瓦礫の山を、上って下りた。そこらには、ないはず。 探すなよ。だって、もう、おまえは自由なんだからさ。 Bは、そっと思う。あれは私の犬で、私を探しているのだ。 犬は、私を捜し出せない。なぜなら、とBは胸を反らし気味にして思う、犬は私のいた場所にしか行けないから。そして、私のいた場所には、私はいないから、決して。 探すな。 聞き耳を立てる。空しい。頭を垂れる。フン。鼻面で、地表すれすれの空気に∞と描く。捩れた首輪の形か。そうでないことを祈る。初めてのように、祈る。 さっさと、どっか、行っちまえよ、人間のいない土地へ。 (おおい、こっちだ) フン。 犬さえ見上げない青空に、解けてゆく飛行機雲の、もう、読めない文字。 いつか、どこかで、大きな音がしたけど、何が起きたのか、確かめに行こうとは、思わなかったね。 (Bって、そういう人だったっけ) |