『いろはきいろ』

『いろはきいろ』

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＃０９４[夜]03

　Ｌが、涙ながらに訴える。文法通りに応えると、身動きが取れないような気がする。苦しい。どんなことでもするから、少し、ずらすことは、大目に見てほしい。でないと、自分の居場所がなくなるような気がする。言葉が世界に隙間なく詰まっているようで、耐えられない。
「あなたがそう思うのは、あなたの世界がすでに言葉ですっかり埋まってしまっているからではないのか。本当は、逆なので、むしろ、語れば語るほど、心の枠と言葉の隙間は、広々と意識されるものだ」
「だったら、なぜ、言葉なんか使うの」
「どういう質問なのか、分からないね。[そうしないではいられないから]としか答えようがない。あるいは、その方が楽しいから、とか」
「でも、文法通りに答えたら、型に嵌まって面白くないし、相手によって言い方を変えることもできないし、そしたら、相手の個性を無視したことになるんじゃないの?」
「[相手によって言い方を変える]と言ったって、基本は変わらない。子供には難しい言葉を使わないとか、目上の人には敬語を使うとか、そんなことぐらい。大体、相手によって言い方を変えるなんて、まるで自分が何人もいるみたいじゃないか」
「いるもん!」
「え?」
「あ」

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