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#095[夜]04 鬱血したように黒い顔を伏せたLの鼻の穴から、2本、太い、透明な鼻汁が、長く垂れている。咽びつつ発する声は、途切れがちで、聞き取りにくい。問い返すと、両手で自分の頭を、ポカポカ、叩き、声がすると言う。 「声がするのよ。ああ、うるさい、うるさい、うるさい。頭の中で声がしてる。そんなはず、ないのに」 「そういうことも、あるのかもしれない。どこから、するんだ」 「遠くよ。海の向こうに舟が浮かんでいて、そこから、何か、言ってる。[そっちは本当じゃない。こっちが本当よ]って言ってる」 「誰が言ってる」 「待って。訊いてみる」 |