漫画の思い出

著者別「あ」

赤塚不二夫
『おそ松くん』
 初期は、六つ子という設定に頼った、細い物語だが、イヤミを筆頭に、キャラクタを中心にした展開になり、大当たり。その点では、『バカボン』よりも賑やか。
(go to 『いろはきいろ』#037[海]

『ひみつのアッコちゃん』 
 『おかしなおかしなおかしなあの子(?)』(石ノ森章太郎)に通じる違和感を抱きつつも、楽しんだ。

『天才バカボン』
 ギャグ漫画の頂点。誰にも越えられない作品。なぜか。この作品は、出版界の常識と作家との闘いを読者が支持したからこそ、成り立ったものだからだ。この作品の登場によって出版界が変質してからは、この作品に漲る緊張感が再来する可能性はない。『バカボン』以降、例えば谷岡ヤスジが何をしようと、許されてしまうような状況ができあがってしまった。しかも、谷岡以上のウルトラを、多くの読者が支持する可能性は、ない。
秋竜山
『秋竜山のすってんころりん劇場』
 客A、ラーメンを食べおわり、丼を灰皿代わりにする。別のテーブルの客B、その丼に自分の吸い殻を捨てる。困った顔の客A。
 人の気持ちのずれを捉える視点は、独特。猫が黙って蹲り、毛を逆立てているような現代人の感覚を、気怠くも活写。
あすなひろし
吾妻ひでお
『スクラップ学園』
 女の子は、可愛ければ、何をしたって許されちゃうわけ? 
 そうだよと答えるまでの短い煩悶の時間を、ぐぐぐうっと膨張させると、雑然とした宇宙の彼方から、猫山美亜、ミャアがやってくる。
 怠け者で、気紛れで、身勝手で、ポニー・テイルなんかしてると、もう、おじさんが可愛がっちゃうぞ。 

『やけくそ天使』
 作者をして、「おそろしいキャラを作ってしもうた」と言わしめたヒロイン、亜素湖素子。
 「タンパク質補給!」と称して、いつでもどこでも誰とでもまぐあう。豊丸の出現を予測したか。
 爆弾でやられても、「しましょうよ〜」
 脳味噌がなくても生きていける。自己増殖も容易。果ては、全宇宙を吸引し、出産する。そのくせ、ブリッ子も、お似合い。
 あらかじめマンネリを越えてしまった作品。永遠に続いてほしかった。

『不条理日記』
 SFのパロディーだらけらしいが、その典拠のほとんどを知らない私にも読めてしまう。一種の漫画家残酷物語。
 「自分でも何を書いているのかわからない」と、ギャグにもならない文字を欄外に記すようでは、作者も辛そうだが、読者だって辛い。だからって、一緒に泣くわけにもいかないから、笑ってやった。
 ギャグ漫画家にだけはなるものではないな。 

あびゅうきょ
『彼女たちのカンプグルッペ』
 私は、この作家を、この「第一作品集」でしか知らない。筆名は、「あべゆきお」の訛りだと推測するが。
 卓抜した描写力とありがちな偽の戦争史で、読者を翻弄する。まるで大型爆弾が破裂したときみたいに白っぽい絵。愛が闘いの比喩なのか、闘いが愛の比喩なのか、判然としない。そこが、作家の狙い目か。
 少女飛行士を描いた「あの子の空」が、最高。


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