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<第13章>

おじいさん&おばあさん






避難所住民さんの中に、80才代(確か、ご自分で88歳と仰ってたかしら?)のお元気なお爺さんがいらっしゃいました。 
配布テントに救援物資を受け取りに来られたことはありませんが、テントの前をよく散歩しておられて、いつも必ず、私達ボランティアににこやかに話しかけて下さいました。 
「(学校の裏庭に)梅がきれいに咲いてるよ〜 私は毎日見てるんですよ〜」 
グランドの常設炊き出し部の柱に掛けられている俳句を指差しながら、「あそこの歌はね、私が詠んだんですよ〜♪」 
「貴女達の笑顔を見せてもらうのが一番の楽しみです〜」 
ご高齢の方にとっては特に避難所生活はお辛いはずなのに、あのお爺さんは、驚くほど心豊かに過ごしておられたように思います。 
実に、仙人のような方でした。 
その仙人のような方が“私達の笑顔を見るのが一番の楽しみ”と仰ってくださったことについて、笑顔に何か奥深いものがある?ような気がしてきました・・
 
同じく避難所住民でいらっしゃる 私とは面識のないお婆さんが、仮設風呂の係で仮設風呂の前に立っていた私に 「お昼に 家に帰ってみると、外に置いてあった洗濯機がなくなってたんよ! 地震でひどい目に遭っている私らの物を盗むやなんて、本当にひどい人がいるもんや!!」と、ひどく立腹しながら話しかけてこられました。
「まあーっ! 酷いねえ!!」と、私は言いました。 

それから彼女は、私を見つけては私にいろいろ愚痴をこぼされるようになりました。 
彼女は歯が抜けていらっしゃって、もごもごとお話をされるので、かなり聞き取り難く、また、お耳もちょっと遠かったようでした。 
なので私は、そのお婆さんのお話し相手というより、「うん! うん! そうやねぇ〜!」と相槌を入れさせて頂くくらいのことしかできない聞き役だったのでした。 
お話の中には、以前にも伺った話が繰り返されることもありましたが、そういうのは私もついしてしまうことなので平気でした。 
ただ、私が仮設風呂や配布テントの作業で忙しくしている最中でも、私のところに来られてはマイペースでもごもごとお話をされるので、作業中の私としては、彼女のお話に集中し続けるのが難しいこともありました。 
 
或る日、配布テントに大勢の住民さんが集まって来られて、「○○はある?」、「○○がほしいんやけど・・」、「これ、1人いくつもらえるの?」などなど、皆さんが口々に同時に話しかけて来られる中、私は両耳、両目、両手&口を同時に働かせていました。 
そんな最中に彼女が来られて、彼女への受け応えもしながら、目を方々に配り、手を動かし、別の住民さんの問いかけに応えながら、聖徳太子もどき?の応対をしていたつもりだったのですが、やはり当然のことながら、私は聖徳太子ではありません・・ ^_^;  
そういう状況でしたので、彼女の話にばかり集中できず、そして、そのお婆さんはその場を去って行かれました。

意図的ではなかったものの、結果的に彼女に疎外感を与えてしまったようなので、後日、彼女と親しい住民のリーダーさんに「かくかくしかじか・・ の状況だったので、最後までお話を聞いてあげることができなかったんです・・。彼女にお会いになられたら、よろしくお伝えくださいね♪」と、私の彼女に対する『ごめんね』という気持ちを聞いていただきました。
すると、「いいねん! あの人はいつも長いことぐずぐず言うんや。気にすることはないよ。」と、私を慰めて下さいました。
そのリーダーさんから彼女に私の気持ちが伝わっているといいのですが・・。 
彼女にはそれっきり会うことはありませんでした。

  

  

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