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<第20章>

最も悲しい出来事



一番風呂の常連さんで、開場時の「お待たせしました〜! どうぞお入りください♪」のボランティアの声と同時に「さっ、行こ、行こっ!」と、居合わせた人達を誘って いつも嬉しそうにお風呂に入って行かれた、 しっかりして面倒見の良さそうな お見受けしたところ60才位のご婦人がいらっしゃいました。
その方は お風呂の開場を待っている間や配布テントのところで居合わせた人達をいつも明るく励ましておられました。 
その日も彼女は、やはり嬉しそうに「さっ、行こ、行こっ!」と、他の住民さん達と一緒に一番風呂に入って行かれました。 
 
まもなく私は、浴室の住民さんから呼ばれ、彼女がかかり湯をされた直後、急に気分が悪くなったとのことを知らされました。 
貧血ぐらいに想像していた私でしたが、医療チームのいる保健室まで全力で走って連絡し、すると直ちに医療チームの医師のお1人が毛布を持って、チーム4人、一斉にダダ・ダダ・ダーーーッ!と仮設風呂までダッシュ! 衣服をまとっていない彼女を素早く毛布に包んで、保健室までやはり、疾風のごとく走って行かれました。 
それはもう 手際の良いこと! 無駄な時間がない! やはり、プロフェッショナルな医療チームでした。
 
追ってすぐ私が 脱衣場に残された彼女の衣類を保健室まで持って行ったところ、医療チームの医師達が何だか難しい表情でベッドを取り囲んでおられました。
貧血だと想像していた私、ちょっと意外な空気を感じました。

10分位して救急車がサイレンを鳴らして避難所に到着!
私は既に仮設風呂に戻っていましたが、彼女が病院に運ばれたのが分かりました。 
 
数日後、入院中の彼女をお見舞いに行かれた住民さんから、あと1週間位で退院できる見通しであることを聞いて、みんなで喜んでいました。
病室では見舞い客の住民さんと冗談を言い合うほど、お元気にされていたとのことでした。 

なのに、その翌日でしたでしょうか、容体が急変して、病院でお亡くなりになられました・・。 
心筋梗塞だったそうです。 
それまで安穏と楽しくボランティアをさせてもらっていた私としては、後にも先にも、彼女の死が最も悲しい出来事となりました。

 実は、浴室の住民さんから呼ばれて私が浴室に行ったとき、「何度も呼んだのに、なんで早く気づいてくれんかったん!!」と、私は浴室で彼女と居合わせた住民さんから叱責されたのでした。 
苦しんでおられた彼女に対して、一瞬でも早く気づいてあげることができなくて申し訳なかったという負い目のような思いが、今も私の心の中にあります。

それ以後、ボランティアはお風呂場の入り口(脱衣場が見える位置)で待機することにしました。 
それまでは、脱衣場前で待機することに気が引けて、入り口から数メートル離れた位置で連合さんが用意してくださった火鉢?(灯油の缶に炭を入れたもの)で暖を取りながら待機していました。
なので、連合さん達と自然に談笑もしました。

だから、浴室からの呼び声に気付くのが遅くなったのです・・。 でも、あのときはみんな、中からの呼び声が聞こえませんでした・・。 
プレハブの仮設風呂はとても頑丈に出来ているので、その分、中からの声が外に聞こえない構造になっているのでしょうか?
 
彼女のご冥福を心よりお祈り申し上げたいと思います。    


  

  

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