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<第15章>

コミュニティー広場



配布テントは、まるでコミュニティー広場でした。
いろんな人が救援物資を目当てに集まって来て、ついでにその場に居合わせた人同士でちょっとした会話を楽しむ場にもなっていました。
誰かと他愛のない話をして心が救われることってありますよね?
中には、配布テントに立ち寄っては必ずボランティアの私達に話しかけてくださる常連さんも何人かいらっしゃいました。
 
その代表選手がマンガ大好きおじさんでした。 
古本コーナーのマンガを眺めながらいつも、「おねえちゃん、あんなぁ、ゴジラ知っとう?」、「ゴジラ対○○の対決の話は知っとう?」、「あんな、あんな・・・。」というように、彼のコジラの話が展開するのでした。 
配布テントのボランティアは全員が女性だったこともあり、ゴジラ対○○の話には疎く、私達ボランティアはただ、「へーっ!」と言いながら、熱心に語られる彼の聞き役をしていたのでした。 
震災でどのような被害に遭われたのかはわかりませんが、震災直後のあの当時、目を輝かせながら生き生きとマンガやゴジラについて語っておられる彼の優しい笑顔を見るのが、私は好きでした。 

そしてある日 私は、「本が大好き!」が口癖のおじさんの、いつものように熱心に本を眺めておられる目の動きに気づいたのでした!
彼はどうも、字が読めないような感じなのです。。 
私は知らないふりをして、もちろん、誰にもそのことは言いませんでした。 
するといつだったか、ぽつりと、「本は昔、よう読んだけど、おじさんの国の言葉やったからな・・。」と、仰いました。 
配布テントの私達に、ちらりと心の内を明かしてくれたようでした。 

配布テントでは、いろんな人のいろんな愚痴も聞こえてきました。
「お弁当のご飯が冷とうて(冷たくて)食べられへん〜!」
実際、そうだったんです。 
冷蔵庫並みの外気温の中で冷え切ったお弁当を一口食べる毎に食道が収縮して、口に入れたものが喉元を過ぎて即、食道で止まる! といった感じを、私も覚えました。
当時の私は胃腸が丈夫だったので 特に支障はありませんでしたが、高齢者や胃腸の弱い方にはそのままでは食べられなかったろうと思います


「医者に『あれ食べたらあかん、これ食べたらあかん』て言われてるから、弁当も殆ど食べられへん!」  
その方の持病のことは知らないのですが、塩分濃度について言えば、腐敗を防ぐ意味で、お弁当の味付けは確かに薄味ではありませんでした。 
でも、普通の人の口には程良い塩加減だったように思います。
 
 

以上で、〈第10章〉からの〈救援物資の配布作業〉についてのシリーズを終わります。


  

  

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